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『月刊 まんがグリム童話』という雑誌があります。
予備知識なしでタイトルだけ聞くと、子ども向けのメルヘンな雑誌だと思われるかも知れません。
こういうイメージ
しかし、『月刊 まんがグリム童話』は、小学生が読むような雑誌ではありません。
表紙を見ると、
「女の生き地獄」「村八分」「強制出産」「抵抗できない女の顔に硫酸ぶっかけ」
といった文字列が並んでいます。
この雑誌、実はグリム童話もそんなに関係ないです。
(公式では「日本の因習、世界の残酷処刑・拷問などをテーマに描く」といった説明になっています)
いちおう、たまにグリム童話ネタも載るのですが……。
たとえば、『シンデレラ』ならこんな感じだったりします。
『まんがグリム童話』名言コレクション
近年の『まんがグリム童話』では、流行の転生モノも載りました。
タイトルは『転生シンデレラ婚活ガチ!』。
現代日本に転生したシンデレラが、セレブとの結婚を目指す物語で……。
「セレブ婚(ちから)を手に入れる」
この野望の荒野では、セレブ婚こそがパワーなのです。
という感じで、『まんがグリム童話』では、たまに決め台詞とか面白いときがあります。
たとえば、2020年8月号の『誘拐ブティック』。(単行本『子宮を貸す女 ~インド・代理母出産の現実~』収録)
彼氏に裏切られた主人公が復讐するという話で……。
泥棒猫&主人公を裏切った元カレ
主人公は、泥棒猫そっくりに整形手術をして、元カレとベッドインします。
彼氏の立場では、まさか目の前にいる恋人が整形した元カノに入れ替わっているなんて、想像もできません。
「クンニした女のアソコの形が別人でゾッとする」というホラーでした。
「アソコまでは整形する必要がなかったのよね…」という締めの台詞が、なんかカッコよさげだけどシュールでした。
それから、2018年12月号の『カストラート』という漫画。(単行本『中国・生娘孕ませ小屋』収録)
主人公が復讐を完遂したラストで……。
肥えた復讐相手が吊り下がった姿を見て、「大きなブドウが実ったよ…」と、亡き兄弟に静かに告げる主人公。
このセンス、大好きです。
『魔女の棲む淑女学校』
そんな『まんがグリム童話』ですから、著作権切れの作品にはやりたい放題です。
たとえば、夏目漱石の『文鳥』を元にして、漱石的なヤツがSMプレイで妾を死なせてしまう漫画が載ったりします。
「文豪作品を大胆アレンジ!!」
そして、かの名作『小公女』も、『まんがグリム童話』では繰り返しネタにされています。
たとえば、2020年3月号の『魔女の棲む淑女学校』。
特集「女の生き地獄 強制出産と堕胎」の一作
扉ページの右下にバーネット作「小公女」と書かれており、『小公女』の翻案らしいです。
しかし、内容は「寄宿学校に入れられた主人公が性奴隷にされるも、女校長を男たちにレイプさせたスキに脱出する」という話。
「舞台が寄宿学校」という以外に、『小公女』との共通点はほとんどありません。
『小公女地獄変』
ほかの例を挙げてみると、2015年1月号には、『小公女地獄変』(A Little Princess in The Hell)というのが載っていました。
(単行本『屈辱の初夜 ~囚われ王妃は種付け要員~』収録)
「F・H・バーネット作」のクレジット
『魔女の棲む淑女学校』よりは原作に近い内容で、「セーラという少女が寄宿学校で暮らしていたところ、父親が死んで、無一文になってしまう」という導入になっています。
ただ、セーラがミンチン先生に命じられたのは、原作のような下働きではなく、性奉仕でした。
『小公女地獄変』のセーラ
結局、この悪事が明るみに出てミンチン先生は逮捕。
セーラは、父の鉱山からダイヤモンドが出て金持ちに戻って幸せに暮らす……というラストも原作寄りでした。
『愛欲に濡れる小公女』
そんなこんなで、今日ご紹介したい本題はこちら。
バーネット作『小公女』より、まんがグリム童話『愛欲に濡れる小公女』です。
主人公のセーラ、メイドのベッキー、悪女のラビニア、強欲なミンチン先生といった登場人物は、原作通りの名前で登場。
金持ちの娘だったセーラが、父親が死んで一文無しの孤児になり、学院の下働きになる……という導入も原作通りです。
ミンチン先生は、マルセルという教師に惚れています。
しかし、マルセルはミンチン先生にはドン引きしており、ラビニアとセックスしていました。
……という感じで、愛しのマルセルに相手にされなくて、ミンチン先生は怒ります。
許すまじセーラ!
これが、世界中の『小公女』で唯一かも知れない、ミンチン先生の変身シーンです。
変身したミンチンは、夜の娼婦街へ繰り出すと……。
ホ別0円で男を誘う痴女と化します。
商売している隣で無料販売なんてされると、娼婦たちは困るわけで……。
ミンチン先生は、娼婦街では「おねだり仮面」と呼ばれて嫌われているのでした。
ともかく、セーラへの憎しみを募らせながら腰を振るミンチン仮面!
もちろん、このような描写は原作には一切ありません。
セーラ VS 変態
怒りのおさまらないミンチン先生は、未払いの学費をセーラに請求します。
お金を稼ぐアテのないセーラが困っていると……。
セーラと同じく下働きをしているベッキーが登場。
こんなゲスい顔のベッキー、見たことがありません。
参考:世界名作劇場のベッキー
とにかく、ゲス顔のベッキーは「知ってるよ、おいしいものがもらえる所」と、セーラを娼婦街に案内してくれます。
彼女は娼婦街で「おしゃぶりベッキー」と呼ばれており、フェラチオで施しを得ているのでした。
そうして、金持ちの紳士に見初められるセーラ。
この男は、娼婦街でも有名な変態なのですが……。
セーラが下着姿になっただけで満足して、10ポンド(現在の日本円で30万円程度)くれます。
この男、変態すぎて一周回って紳士なのでした。
セーラとジャック
その後、セーラはイケメンと出会います。
セーラは彼に惚れますが、実は、このイケメンの正体は切り裂きジャックなのでした。
もちろん、『小公女』の原作に切り裂きジャックは登場しません。
切り裂きジャックは1888年で、いちおう『Sara Crewe』の最初の単行本は1888年です。※初稿の完成や雑誌連載の開始は1887年。アニメ版は1885年が舞台。
(ホームズも同じ時期のロンドンにいたので、ホームズとジャックの二次創作は多いです。セーラとジャックだと、ムーンライトノベルズに「切り裂きジャックの人格を持ったセーラ」の短編が投稿されたりしています)
ともあれ、切り裂きジャックの正体を知ったミンチン先生は、通報してやるとセーラを脅します。
切り裂きジャックを愛している小公女セーラは、これに逆らうことができません。
そこでミンチン先生は、学院に寄付している金持ちを呼び出して……。
セーラは輪姦されてしまうのでした。
ご満悦のミンチン先生。
さらに、セーラとの約束を破って、切り裂きジャックの正体も通報します。
決戦! 小公女 VS おねだり仮面
その結果、切り裂きジャックは死亡。
セーラは、プリンセスであることを捨てて復讐を誓います。
まずは、以前30万円くれた変態に協力を要請。
セーラはもう非処女だということで、変態としては、あまり気乗りしないのですが……。
セーラが全裸で聖母と同じポーズをとると、
「これは…してやられたな」と変態も思わず納得。
感銘を受けた変態は、セーラに手を出すこともなく、無償で協力してくれます。
そうして、ついに復讐を果たしたセーラ。
おねだり仮面がバレたミンチン先生は、みんなから見放されます。
その後、セーラは学院を出て、変態の援助で娼婦街の改善に努めるのでした。
……この変態、もしかしてただの聖人なのでは?
こうして、娼婦街でハッピーエンドを迎えるセーラ。
「ダイアモンドもドレスもないけれど、この子供たちの笑顔が何よりの宝物。その輝きの中で私は生きていくわ」
と、こうして見ると「お金持ちに戻らずに貧しい人々の中で生きるセーラ」というのもアリな気がしてきます。
まあ、原作者のバーネット様が見たらブチ切れそうな気もするのですが、著作権が切れた死人には口も権利もないということで、『まんがグリム童話』は今日もゆくのでした。