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こんな浴衣姿の男でも、頭のアレの存在だけで、一目でメイドさんだとわかります。
というわけで、今日は、この頭のアレの話をさせていただきます。
昔のメイド描写
実は昔は、現在ほど「メイドさん=頭のアレ」という意識ではありませんでした。
少女漫画などでメイドさんは見かけるのですが、『ベルサイユのばら』(1972年~)、『バジル氏の優雅な生活』(1979年~)、世界名作劇場の『小公女セーラ』(1985年)などなど、帽子のキャラも多くて、頭のアレの印象はそこまでありませんでした。
バジル氏の優雅な生活
ベルサイユのばら
ベッキー
とはいえ、頭のアレをまったく見なかったわけではありません。
たとえば、同じ『小公女セーラ』でも、セーラの専属メイドは、帽子ではなくカチューシャでした。
マリエットさん
雑務を担当するベッキーは帽子、身の回りの世話を担当するマリエットはカチューシャと、たぶん、実際のロンドンのメイドさんに即した感じになっていました。
宵闇通りのブン
昔のメイド描写といえば、特筆すべきは、高橋葉介先生の『宵闇通りのブン』です。
『マンガ少年』の1980年9月号に掲載されたこの回は、主人公がメイドのアルバイトをするエピソード。
40年前の作品にしていわゆる「メイド回」があるというだけでスゴい上に、エプロンドレスをガルウイングにするという、メイド服の魔改造を行っています。
後世の「メイド萌え」を先取りする、天才の所業でした。
しかし、それでも、頭部にはカチューシャではなく帽子を採用しています。
80年代。メイド帽子とメイドカチューシャの混在
80年代には、「メイドさん」はメジャー属性ではありませんでしたが、エロアニメやエロ漫画にメイドさんが出てくることはありました。
(だいたいは、お金持ちのお屋敷で働くメイドさんが、主人にエロいことをさせられる感じの話です)
たとえば、1986年のエロアニメ『くりぃむレモン 11 黒猫館』。
明確に二次元でオナニーするようなオタクに向けた作品なのですが、ここでもメイドさんは帽子です。
あえて「王道」を外した、というわけでもありません。
この時期にはまだ、「頭のアレがメイドさんの基本」という観念がなかったのでした。
とはいえ、頭のアレをまったく見なかったわけではありません。
カチューシャっぽいアレを付けているメイドさんもいました。
性奴人形
メイド物語
『性奴人形』:海野やよい先生。1988年の単行本に収録/『メイド物語』:森永水基先生。1989年の『ハーフリータ』が初出
そんな感じで、二次元エロメイド界で、帽子とカチューシャは混在していました。
Half MaiD
1990年に発売された『メイドさん(エプロンドレス)コミックアンソロジー』という本は、当時を伝える貴重な史料です。
この本に登場するメイドや使用人などをざっと見ると……。
帽子系。
メイドカチューシャ系。
大きなリボン系。
その他。
……と、帽子やカチューシャが混在しています。
メイドカチューシャは多いのですが、全体から見ると半分以下です。
そして、このアンソロで一番重要なのが、ますやまけい先生の『frill frill 天国』。
メイドさんの格好に憧れる登場人物の口を通して、作者のメイド服観が語られており、1990年当時のメイド好きエロ漫画家の認識が垣間見えます。
ここで、「一応基本型」はキャップという認識です。(「一応」の一言に省略された思いは深そうですけど)
いまのwikipediaでは、
現在、一般に「メイド服」と呼ばれているものは、黒または濃紺のワンピース、フリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスに、同じく白いフリルの付いたカチューシャの組み合わせが基本である。
……という記述になっているのと比較すると、認識の変化が感じられます。
それから、色々なタイプのメイド服を試着していくのですが、
……まさかの『宵闇通りのブン』リスペクトです。
そして、
カチューシャ系の衣装は、「ウエイトレス風」「ホテルのメイドっぽい」という紹介でした。
90年代前半
そんなこんなで、1990年の時点では、「メイドさん=頭のアレ」という結びつきは、そこまで強くありませんでした。
(カチューシャのメイドさんも多いですが、帽子のメイドさん像も一般的でした)
そして、90年代前半。エロゲの時代がやってきます。
ここでも、頭のアレは、あったりなかったりします。
ためしに、メイド・侍女・家政婦・女中などのキャラが、メイドカチューシャ的なものを付けていたかどうかを、私の記憶の範囲で書いてみると……。
カチューシャ | 非カチューシャ | |
CAL II Sweet Emotion |
1991 | |
PREMIUM 同級生 |
1992 | 狂った果実 MISCHIF イーリス亭小夜曲 |
GR JYB てぃんくる 河原崎家の一族 |
1993 | 黒猫館 極楽まんだら 奈緒美 禁断の血族 |
アラベスク まじかるぼーど 機械じかけのマリアン マスカレード 雑音領域 闘神都市II |
1994 | LIKE |
31 夢幻夜想曲 夢幻泡影 拘束 PERFECT BLUE FRONTIER 隷嬢セーラ JACK 背徳の女神 BLACK BIRD |
1995 | 晴れのち胸さわぎ ツーショットDiary2 |
かなりいい加減な表で、申し訳ございません。(記憶が曖昧なものをとりあえず除外したり、確認作業をしっかり行っていなかったりします)
と、1996年ごろには、メイドカチューシャが圧倒的優勢になっていました。
1996年に桜桃書房が出した『素敵なメイドさん』というメイド漫画アンソロジーを見ると、ほぼすべてのメイドさんがカチューシャを装備しています。
1990年のアンソロジーと見比べると、6年間で世界が変わったのがわかります。
(ほかにも、たとえば、1996年に発行された『危険領域III メイドさん』という同人誌も、7人の作家さんが参加していますが、ほぼカチューシャ装備です)
また、『PC Angel』の1996年2月号には、脚本家の倉田英之さんが、こう書いています。
あくまで“メイドさん”なのである。“お手伝いさん”ではいけないのだ!!
服は黒く、エプロンは白く。頭にはなんかよくわからん髪飾りをつけて、朝起こしに来たりお茶を入れてくれたり、ホウキを持って庭掃除をしてくれたりする。これが男の夢だ。
と、なんかよくわからん髪飾りが、メイドさんの基本要素という認識になっています。
まとめ
そんなこんなで、メイドさんの頭部については、キャップが一応の基本型だったところ、1980年代後半から1990年代前半、徐々にカチューシャが強くなっていき、1994~1995年ごろに、一気に勢力を拡大。
メイドさんといえば、頭になんかよくわからん髪飾りを付けている……というイメージが共有されました。
それから、エロゲのメイドものはどんどん増え、メイドさんの波は一般作にも広がっていきます。
そうして、90年代末から現在までに、メイドさんのありようはだいぶ変化するのですが、「メイドさん=頭のアレ」という結びつきは、1995年前後に形成されたものが、それほど変わらずに継承されている感じです。