本文

「ハッテン」という言葉に関する、ごく断片的な覚え書き

ハッテンするなら池袋。

ハッテンするなら池袋

ハッテン図書館

といった感じに、現在、「ハッテン」という言葉は、主に同性愛に関係して使われています。

『風俗奇譚』1974年6月号
ハッテン多数、1人で来訪2人で帰る館(1974年)

出版物で確認できるところでは、1960年代にはすでにこの表現が見られます。

戦後、エロ関係の出版は規制が厳しく、「現在、女性向週刊誌などにもSM小説が載っている時代になり」「最近の一般雑誌の小説類の中には、一昔前までは全然姿をみせなかったSM、フェチ、浣腸、男色などをテーマにしたものが、堂々と掲載されるようになった」(『奇譚クラブ』昭和44年7~8月号)などと言われるようになったのが1960年代でした。

そういったアレコレもあって、もしも古くから「ハッテン」が同性愛者間で使われていたとしても、『風俗奇譚』が成立するよりも前の出版物にそれを見つけるのは難儀で、「ハッテン」が普及した時期については、私には「少なくとも1960年代には使われていた」としか分かりません。ごめんなさい。

たまたまWikiを見て引っかかったことを言いたくなっただけというアレな話

さて、現在、Wikipediaの「発展場」には、次のようにあります。

語源 [編集]

異性愛者の男性で、女性関係や酒場などでの交友関係が広く盛んな人を指して「発展家(はってんか)」と呼ぶが、「発展場」に使用される「発展(はってん)」の意味合いと共通点が指摘されている。ただし「発展場」という語が同性愛者たちに浸透していく年代と、この「発展家」という語が広く使用されていった年代[4]が重なるため、どちらが先に使われたかは不明である。なぜ「発展」が当てられたのかについても定かでない。

また面識のない相手と「性行為に"発展"する」「恋愛に "発展" する」が語源という説など諸説ある。

出典 [編集]
  1. ^ 日本映画『社長三代記』(1958年)に「女性方面にご発展で」という台詞がある。

今日は、これについてほんの少し。

異性愛のエロに関して「発展」という言葉を使うことは1920年代には広まっていたという話だけ、書いておきたいと思います。

昭和初期の「発展」の用例

たとえば、1931年に出版された『弱肉強食』(前島天狼・著)という本を読むと……。

当時の京大の入学式は、次のような感じだったそうです。

入学式に学長は劈頭に宣言する。『本学の創立当時「京都に処女無し」といわれた時代がある。(中略)処女を妻にする意思なく結婚をせずして侵すことは止めてもらひたい。その代わりプロ(公娼)に発展するのは大目に見るつもりである』

京大の学長が本当に入学式でこんな話をするのかはさて置き、昭和6年の時点で、「発展」がこんな感じに使われているわけです。

同じ本の別の箇所にも、次のようにあります。

学生の発展振り、ことに南進主義者の最右翼の連中と来ては、連日連夜のエロ生活で眼が座って来るものがいた。


1927年(昭和2年)に出版された『現代語新辞典』にも、この「発展する」が載っています。

【発展する】(ハッテンスル) 成長、発達の原義より転じて、若き男女のよからぬ方面に遊ぶをいう。

『現代語新辞典』

このころ、「現代はエロ・グロ・テロの三ロ時代だ」などと言われて、「エロ」が新社会現象として持てはやされていました

たとえば、昭和5年の『エロ新戦術』という本の書き出しには、「われらの1930年代の夢は、スピードと、スポーツと、線の太いエロ恋愛から構成された三部作だ」などとあります。

この社会現象について、『アカハタの歴史』という本によると、「1927年に始った大恐慌をともに日本資本主義はその血路を当然人民大衆の搾取強化にもとめた。(中略)このときブル新聞がいっせいに全国にばらまき始めたものはエロ、グロ、ナンセンスの毒ガスであった(中略)政治の問題を真正面から真剣にとりくんで考えることをこの毒ガスでしびれさせてしまうことをねらった。松竹のレヴューガールが低賃金に耐えかねてストライキをやればブル新は『エロ争議』の見出しで紙面一杯にレヴューガールの丸ももをおどらせた。エロ・グロ、ナンセンスは八千万の人民大衆を帝国主義戦争のどろ泥のなかにひきづり込むことに成功するまでますますロコツにエゲツなく(以下略)」と、エロは資本主義の陰謀であったというアカハタ史観が示されております。

と、三ロ時代は1927年ごろに始まった(ウォール街大暴落は1929年といったことはさておき)と言われることもあるような感じの時期で、若き男女のよからぬ方面に遊ぶことをいう「発展する」も、たぶんそんな三ロ時代の「現代語」で、検証不足で申し訳ないのですが、おそらく1920年代に登場した言葉なのではないかと思います。


そんな感じで、現在のWikipediaでは、「発展場」という語が同性愛者たちに浸透していった時期は、異性愛の「発展家」の時期と近い(1950年代ごろ)という記述なのですが、異性間のエロに使う「発展」は、それよりもだいぶ古いはず……というメモでした。