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週刊少年ジャンプの『ゆらぎ荘の幽奈さん』で、まさかの『南海奇皇』ネタが来ました。
『南海奇皇』
『南海奇皇』
『幽奈さん』
『南海奇皇』は、ランガという巨大な神の物語なのですが、『幽奈さん』では、ニャンガが登場。
ランガ
ニャンガ
ちなみに、『南海奇皇』のテーマは「楽園」で、主題歌は『風の眠る島』でした。
さて、『南海奇皇』は、1998年に第1期、1999年に第2期が放送されたテレビアニメ。
地上波ではなかったので、当時のオタクにも、そんなにメジャーではありません。
なので、いまジャンプを読んでいる令和の少年に理解できる元ネタではないのですが、
全身ペイント&ヒラヒラでチラチラのスケベさは、20年の時を超えて、いまの少年たちに届いたはず!
全国の令和ボーイがこれを見てオナニーしているわけで、次の世代へ何かが手渡されたのを感じます。
『南海奇皇』とは
というわけで、せっかくだから、『南海奇皇(ネオランガ)』の話をします。
その第1話は、身長18メートルの巨大怪獣が東京に上陸してきたところからスタート。
首都高を北上する怪獣に対して、政府は「災害」と認定して自衛隊を出します。
そして、天王洲アイル駅を爆破して、急造バリケードにする自衛隊。
この「天王洲防衛線」を、怪獣は簡単に突破。
品川駅を破壊して、山手線内に侵入します。
「火力を投入するとすれば、……代々木公園!」
「この作戦には根本的な問題があるぞ。代々木公園と原宿駅のあいだに何があるのか、忘れておらんかね」
……という感じに、物語序盤は、「もしも東京に怪獣が上陸したら」を少し真剣にシミュレートしたような内容。
硬派なアニメが来たという、期待感がありました。
ただ、それから、アニメ雑誌に掲載された制作スタッフのインタビューを読むと……。
「確かに1話はシリアスに見えましたね。でも、僕はやっていることはギャグだと思うんです」
「表層のシリアスな雰囲気に飲まれないで、一歩引いた目で物語を見てほしいんです」
「『ネオランガ』は笑いながら見ていただきたい」
(『アニメージュ』1998年5月号)
「『真面目であるが故にコメディー化してしまった状況』を本作では狙っています」
(『AX』1998年4月号)
……と、一歩引いてコメディとして見てほしいという話でした。
社会派日常アニメ
そんな『南海奇皇』の主人公は、武蔵野に住む美人三姉妹。
色々あって、巨大怪獣(?)ランガの正当な「持ち主」になります。
島原三姉妹
島原さん所有のランガ
監督インタビューによると、
「ランガを所有することで大きな力と責任を負ってしまった三姉妹は、無理難題を押し付けてくる社会に対しどう立ち向かっていくのか。その辺りを重点的に描けたらと思います」
「自分たちの日常に怪物が来た。その怪物が自分たちの側にいる不思議な日常世界を大いに楽しんでほしい」
(『アニメージュ』1998年5月号)
ということで、怪獣所有者と社会との関わりをリアルっぽく描く、日常ものみたいな……。
そんなコンセプトのアニメが、『南海奇皇』でした。
以下、ネタバレ注意。
怪獣がいる日常
たとえば、ランガ(ネオランガ)をめぐって、作中では次のようなことが起こっていきます。
●近所でネオランガクッキーやネオランガまんじゅうが販売される
●ランガ目当てのマスコミや観光客によって近所の商店の売上が上がるも、すぐにコンビニができて売上を持っていかれる
●朝の番組できょうのねおらんがのコーナーが作られる
●ランガをバラエティに出演させる仕事が相次ぐ
●すぐに飽きられて、最後のほうは低俗な番組に出ることになる
●ランガにお祈りするひとが増えたので、プリントゴッコでお札を量産して売りさばく
●日本国内でランガが普通に所有されていることを問題視したアメリカが、日米安保に補足条項を追加するという形で干渉してくる
●ランガの武力を背景に武蔵野を日本から独立させて、西東京暫定独立領(通称ネオランガ領)が誕生する
●日本国内で戦闘して、「ネオランガまたも違憲」と報道される
……と、ご近所から国の問題まで、基本リアルっぽい方向性で、怪獣のいる日常が描かれます。
次女・海潮(うしお)
さて、ランガを所有する三姉妹の次女・海潮(うしお)は、15歳の中学生。
声優は宮村優子!
制作者のインタビューによると、「戦うヒロインのパロディ」とのことでした。
彼女は、正義感が強くて、バトル系アニメの主人公っぽい性格をしています。
ランガをうまく使って、みんなを笑顔にしようという考えです。
具体的には、交通違反車をランガの攻撃で破壊して、おまわりさんに説教されたりします。
海潮「これからは悪いやつバンバン捕まえちゃうからね! 警察や自衛隊の手に負えない悪を……」
警官「そんなもんはいねえ!」
と、戦う力を持っている正義のヒロインに、戦う敵がいなかったら……みたいな葛藤が描かれます。
長女・魅波(みなみ)
ランガを所有する三姉妹の長女・魅波(みなみ)は、24歳。
両親が死に、兄が行方不明になった家庭で、ふたりの妹を育てる苦労人のリアリストです。
朝は新聞配達、昼は潰れかけの会社、夜は月水金シフトで水商売。
で、この24歳、実は、失踪した34歳の兄に恋しているという設定です。
『2428』より年長の2434という兄妹ラブ!
しかし物語終盤、帰還した兄が、その気持ちを受け入れると言い出すと、魅波はこんな顔になります。
「自分一人で『いけない』と思ってるうちは楽しいのよ。禁じられた楽園ってやつ? でも、相手もそれを知ってるなんて、サイテーじゃない」
……とのことで、つまり、経済的に苦労しながら妹を育ててきた魅波は、行方不明の兄に禁断の恋心を抱き続けているというファンタジーに軽く現実逃避していただけ。
いざ本当に、血のつながった兄と男女の関係になるというのは普通にキモかったという話でした。
創作上の兄妹ものって、おおむねファンタジーなわけですが、そこを創作の中で掘り下げてみちゃうのが、『南海奇皇』らしいところ。
放送が「妹ブーム」の少し前で、流行とタイミングが合わなくて世間から注目されなかったマニアックさも、『南海奇皇』らしいです。
三女・夕姫(ゆうひ)
ランガを所有する三姉妹の三女・夕姫(ゆうひ)は、12歳の小学生。
男に貢がれた、高い下着を装備
9歳のショタが隠し事をしているのに対して、「言えばキスしてあげる」で口を割らせるようなドS系JSです。
「キスしてあげる」
エロ水着
制作スタッフによると、「夕姫は、少女の社会に対する悪意をストレートに描こう」としたキャラクターだそうです。
彼女は良くも悪くも子供で、世間や社会の決まりごとに反発します。
たとえば、「わしの家はな、ずっと神様をお守りして、そいで死んでいくのじゃ」と、先祖代々、神様の場所を守り続けているという田舎の親戚に会って……。
夕姫は、その神様の聖域にランガで侵入して、奥にいた神様をランガで攻撃。神様は滅びます。
夕姫「もう神様なんかに縛られる必要はなくなった」
しかし、親戚は「お守りし続けるのが家のしきたりじゃからね」と、死んだ神様を祭り続けるだけで、何も変わりませんでした。
夕姫とクリスマス
さて、三姉妹は経済的・社会的に弱者で、生活は苦しいです。
しかし、毎年12月になると、長女と次女は嬉々として飾り付けをして、クリスマスに盛り上がろうとします。
夕姫は、そんなクリスマスが嫌いです。
「クリスマスになると変に明るくなる。そんなお姉さんたちを見て育ったから、夕姫はクリスマスを嫌いになった」
「夕姫が見ていたのは、海潮たちだけではなかった。彼女は、その日を笑顔で迎えられないみんなを見ていた」
……ということで、いくらクリスマスだといっても、自分が抱えている問題が変わるわけではなく、つらい気持ちのひとはいます。
それは、「リア充に嫉妬してクリスマス死ね死ね」なんてノリでもなくて、もっと行き場のないしんどさです。
「その日は、だれもが幸せでありたいと思う日だった。けれどいつからか、幸せでなくてはならない日になっていた」
そんなときに救われるのは、「戦うヒロインのパロディ」である海潮が無邪気に押し付けてくる「やっぱりクリスマスはみんなで盛り上がらなきゃねえ」という台詞ではなく、夕姫が「その日を笑顔で迎えられないみんなを見ていた」という共感だと思います。
みんなを見ている(?)夕姫
……みたいなエピソードを、ちょっと考えさせられるアニメとして見ることもできるのが『南海奇皇』でした。