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平成20年3月30日 「巨人の星」の左門の妹は年をとらない

 マガジン先週号の「新約 巨人の星」に、左門が初登場しました。

 そこで、花形・飛雄馬・左門の「新解釈」を比較してみると……。

『巨人の星』 KCスペシャル版 1巻153頁 『週刊少年マガジン』 2006年52号239頁
誰だお前

『巨人の星』 KCスペシャル版 1巻234頁 『週刊少年マガジン』 2007年30号296〜297頁
ほっぺたが「NARUTO」

『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻21頁 『週刊少年マガジン』 2008年16号216頁
1966年 2008年

 ……左門だけはほぼ昭和のまま登場

 そういえば、原作者自身が作ったニセモノである「新 巨人の星」でも、

『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 3巻301頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 3巻301頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 3巻120頁
花形(27歳くらい) 飛雄馬(25歳くらい) 左門(27歳くらい)

 花形と飛雄馬は明らかに別人なのに、左門は据え置きでした。

 やはり左門の時代を超えたイケメンっぷりには、手の施しようがないのでしょう。



 ところで、そんな左門は5人の弟妹を養っています。
 その中でも長女・ちよは比較的しっかり者で、弟たちの世話や家事をしていました。

『巨人の星』 KCスペシャル版 09巻253頁
元祖ちよ(アニメ版の声優はバカボンのママ)

 「新約 巨人の星」では、この設定を踏襲しながら、外見を現代風にアレンジ

『週刊少年マガジン』 2008年16号206頁
新約ちよ

 さらに、「ふえっ」「照れちゃうよぉ…」「エヘヘ」「モゴモゴ」といった言動に、「病気」というオプションも追加され、左門がエロゲーの主人公のようです



 さて、そんな左門ファミリーですが、原作では長女よりも二女・みちの方がミステリーでした。

 というのも、「巨人の星」から「新 巨人の星」にかけて約18年間の彼女の成長の記録を見てみると……。

『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻360頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 11巻199頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 4巻176頁
昭和34年ごろ 昭和44年 昭和52年

 つまり、彼女は中学生くらいになっても幼児語でしゃべり、大学生くらいになっても椅子に座ると足が浮くのです。

 本来なら働いたり嫁いだりする年齢なのに、いつまでたっても兄に扶養されている妹。
 その成長速度は、兄や姉と比較してみても……。

『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻360頁、『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 5巻321頁
左門ブラザーズの18年間の成長

 たぶん、彼女はニートをこじらせて成長が止まったと思われるので、左門は早くこの20代の幼女を路上に放り出すべきでしょう。



 とはいえ、「巨人の星」ワールドの時空が歪んでいるのは、左門家だけの現象ではありません。

 たとえば花形の場合、昭和43年にプロ入りした事実から逆算すると、例の車を運転していた昭和33年には小学3年生だったことになります。

『巨人の星』 KCスペシャル版 01巻079頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 01巻056頁
例の車 左のガキは「六年生」との言及あり

 しかし、花形はこの時点でテニス歴10年だったり、六年生の頭をナデナデしたり……。
 作者の認識としては「中学生以上」という設定で描いているように見えます。

 また、「巨人の星」の世界では飛雄馬が昭和41年から一年過ごしたら昭和43年になっていたりするため、どう計算しても絶対に矛盾します。
 そこで、どうせ何かは矛盾するのなら、「オッス、オラ梶原一騎。花形は昭和33年の時点で13歳以上だけど、昭和43年に19歳なんだ。文句あっか!」という説を採るのが一般的です。

 同様に考えるなら、左門の妹も「外見が異様に幼い20代」ではなく「実年齢自体が幼女」だということになります。
 つまり、作者の認識としては、犬が一生四本足で歩くような感じで左門は一生妹を扶養し続ける存在なのでしょう。

『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 5巻324頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 5巻324頁
※全員20年以上生きています

 ネットアイドルちゆは左門を応援しています。


平成20年3月30日 おまけ:左門に関するメモ

 あと、左門について書いてみたけど特に笑いどころのない話がいくつかあるので、いちおう置いておきます。



 「『巨人の星』に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。」という本には、次のような記述があります。

 最初のころ、左門の目はただの横線だった。目の玉を描いてもらえなかったのだ。不憫なやつだ。貧乏に耐えてなんとか高校に入って、甲子園にも出場したのに、でも目玉は描いてもらえないのである。甲子園で弾丸ライナーを放とうが、高校選抜の選手としてハワイに遠征しようが、ずっと横線だけの目である。かわいそうに。
 しかし、そんな左門にも開眼の日がやってくる。
 プロ1年目のキャンプ直前、(以下略)

 しかし、実は甲子園の時点で、左門の目玉は描かれています。

『巨人の星』 KCスペシャル版 3巻040頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 03巻041頁

 この本の筆者の方も熱心な「巨人の星」ファンなのですが、こんな重要なシーンをなぜか忘れ去られてしまう左門がかわいそうです。



 Wikipediaの「左門」の項には、次のようにあります。

彼が涙を流したのは『新・〜』の76年のオールスター戦で飛雄馬が右で遠投を見せた時右投手としての復活を予感した嬉し涙ぐらいである

 一方、「『巨人の星』に必要なことはすべて人生から学んだ。あ。逆だ。」には、(「新・〜」は含めず)登場人物が泣いた回数について、こうあります。

花形と左門は少なくて、花形が6回、左門なんか1回だけである。

 まあ、どちらも「泣いた回数」そのものが主眼ではないのですが、「新 巨人の星」を除くと、左門は「一度も涙を流していない説」「一度だけ泣いた説」があるようなので、いちおうそれっぽいシーンを並べてみました。

『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻359頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 6巻266頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 5巻198頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 3巻54頁
『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻364頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 8巻318頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 11巻363頁
左門が泣いてるかも知れないシーン集

 ええと、左端の回想シーン2つを除外すれば、おおむね主観や日本語の問題という感じで、別にどちらの説も間違いではないようです。

 ちなみに、「花形が6回」とありますが、本編中で花形は少なくとも9回は泣いています。

『巨人の星』 KCスペシャル版 3巻123頁 甲子園の対決後、「星くん ぼくはますますきみに勝ちたくなった」「だが そのまえに‥‥ も もう一度 きみをだきしめさせてくれたまえ! なんてすばらしいライバル!」
『巨人の星』 KCスペシャル版 5巻115頁 テレビ座談会で、「日本じゅうのみなさんが注目しているテレビでおはずかしいが‥‥この涙は止めようがない‥‥」「なぜなら‥‥ぼくは星くんが帰国するなり オープン戦で顔があえば かれのたまをバッティング投手のようにめった打ちにするでしょう
『巨人の星』 KCスペシャル版 5巻155頁 プロ初対決で、「ど‥‥どうして‥‥ こんなことになってしまったのだ」「星くん‥‥ きみのあれほどの野球への情熱が 努力が ただ体格にめぐまれぬという理由だけで‥‥ こ‥‥こんな情けないたまになってしまうとは‥‥ あんまり残酷だ!」
『巨人の星』 KCスペシャル版 5巻203頁 報道陣に解説中、とつぜん素振りを始めて泣き出し、「た‥‥たとえ‥‥火に落ち 灰になろうとも その灰の中からよみがえってくるっ いっそう手強い好敵手となって!」
『巨人の星』 KCスペシャル版 6巻57頁 大リーグボール一号との初対決後、「野球規則三・〇九の第二項にまた こういう意味のことが書いてある いったんユニホームをつけグラウンドへ出たら 相手チームの選手と親睦的な態度をとってはならない‥‥ そ‥‥それさえなければ星くん‥‥ きみをだきしめ祝福してやりたい
『巨人の星』 KCスペシャル版 9巻309頁 牧場の連載開始記念のイベント座談会で、「しかしその投手にとって 親友の打者はやがて敵にまわる運命が決定している‥‥‥‥こういう美しさにぼくはなみだするね」
『巨人の星』 KCスペシャル版 10巻123頁 報道陣の前で、飛雄馬との対決を控えた伴によびかけて、「親友なればこそ ひたすらに死力をかたむけてたおせ! そして‥‥ 兄弟にもまさる親友の命すら絶たねばならぬ勝負の世界の神聖さ 男の世界のきびしさを満天下に示せ!
『巨人の星』 KCスペシャル版 10巻241頁 報道陣に大リーグボール二号を打った経緯を解説中、明子と別れたときの話になって、「だまって彼女のほうもすがたを消した いかにつらくとも別れねばならないとき 相手もすがたを消してくれたから完全な別れがあった‥‥‥‥ 恋は消えた!
『巨人の星』 KCスペシャル版 11巻171頁 イギリスの小学校時代の回想の中で、「子どもながらも黄色いジャップへのけいべつの目が ぼくを待っていた」「なにくそ! しかしぼくの生まれついての負けん気に火がついた 皮ふが黄色かろうと 身心ともに おまえたち以上の貴族に なりおおせてみせる!



 ところで、「巨人の星」のストーリーの流れは次のような感じで、左門は最終回でわりと唐突に結婚します。

貧乏人の息子・飛雄馬が青春のすべてを野球に捧げて努力
 ↓
生まれつき体重が軽いというだけで、プロで活躍するのは不可能だと判明
 ↓
根性で魔球を編み出して体格のハンディを克服
 ↓
「生まれつき億万長者の息子のイケメン」に打ち砕かれる
 ↓
好きな女の子ができる
 ↓
すぐ死ぬ
 ↓
新しい魔球を編み出す
 ↓
「生まれつき億万長者の息子のイケメン」に打ち砕かれる
 ↓
さらに魔球を編み出す
 ↓
それは投げるだけで筋肉がボロボロになっていくシロモノだった
 ↓
選手生命が終わる
 ↓
「同じようにどん底から這い上がってきたキモメンだけど飛雄馬と違ってデブだったから問題なく野球選手として成功した男」が初恋の女の子と結婚して幸せになるのを物陰から見届けたのち、十字架を背負って行方不明になる

 さて、飛雄馬にとって最大のライバルは花形であり、最高の親友は伴宙太ですが、かれらは金持ちのボンボンでした。
 飛雄馬は、「力のないものが協力し どん底からはい上がろうとする努力に おれめちゃめちゃに弱いんだ! おれととうちゃんも同じだもんな‥‥」と、花形や伴宙太には持ち得ない共感を、左門にだけ感じています。

 最終回は、普通に花形の結婚式にすれば、それほど唐突な挙式には見えなかったでしょう。
 しかし、同じ貧乏出身のダサ男なのにデブか否かの差で明暗の分かれた親友の幸福を心から祝福しながら姿を消す……という原作の展開の方が、ずっとすごいと思います。

 そんなわけで、左門は物語上とても重要な登場人物だと思うのですが、「新約 巨人の星」のように花形を主人公にしてしまうと、左門はいなくても良くなります
 そういう意味で、今回の「新約 巨人の星」で、左門の妹が花形に淡い恋心を抱く展開っぽくなっているのは、それなりに興味深いと思います。

 まあ、そもそも主役を花形にして舞台を現代にした時点で、なんで「巨人の星」を原作にしているのかサッパリ分からない漫画になってしまっているのですけど。

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