平成17年3月12日 | COOLドライブ | |||||||||||||
昔、少年ジャンプに「COOL」という漫画が連載していました。そのウリは、とにかく主人公がCOOLなことです。 まず、主人公の名前が「クールさん」なのがCOOL。それから、主人公のうずまき状のアホ毛が付いた髪型もCOOL。あと、主人公が肉声で喋らずにラジカセを使って会話するのもCOOLです。 ついでに、主人公のお友だちも、暴走するトラックをパンチ一発で止めてしまうCOOLな奴でした。 そして、最大の見せ場は、COOLな主人公が「COOL」「COOL」「COOL」「COOL」と叫びながらバイクをカッ飛ばす場面。
……この漫画は18週で打ち切られました。 さて、その作者・許斐剛先生の次回作が「テニスの王子様」。 COOLな中学生たちがCOOLなテニスを繰り広げる超COOLな漫画で、何の因果か大ヒットしました。 特に、最近登場した沖縄の中学生たちのCOOLさは只事ではありません。 倒した相手チームの選手に応援団が「負け犬」コールの大合唱を浴びせたり、相手チームの監督にアドバイスさせないためにスマッシュで監督を狙い撃ちにして病院送りにしたり、「かってんぐゎー」「んかいんじらりーん」などの方言が多すぎて何を喋っているのか理解不能だったり、「沖縄は日本じゃねえ」と言わんばかりの危険表現の連発です。 そんな「テニスの王子様」では、テニスを超越した変態的にCOOLな必殺技の数々が登場。表向きはスポーツでもハートは格闘技です。
……別にパクリとかそういう話ではなくて、技のネーミングその他がバトル漫画と平気でカブるのがCOOLだなと。 あと、桃城先輩は「修羅の門」で言うと飛田さんのポジションということで、主人公が世界に進出した時には解説席に座っているに違いありません。
……こちらは刀をラケットにかえただけでまんま牙突に見えますが、たぶん何らかのCOOLなギャグなのだと思います。 そんな感じで、ボールが消えたり増えたり光ったりは当たり前の世界観。 主人公の特技はスーパーサイヤ人化で、「土煙を巻きあげながら全身を発光させてパワーアップする」という謎の現象ですが、作中人物たちは「試合中に無我の境地に至った」という説明だけで納得していました。かってんぐゎー。 そして、主人公はこう言います。「このままではアイツには勝てない」「なら――COOLドライブ…アレを完成させてやる!」 ……COOLドライブて! やっぱり「COOL」「COOL」「COOL」「COOL」絶叫しながらテニスボールをカッ飛ばすのでしょうか。 しかし、大ゴマや見開きが異様に多い「テニスの王子様」は、ジャンプで最も そのため、非常に そして1年後。ようやく登場した「COOLドライブ」は、ボールがバウンドせずに地面を転がっていくだけというものでした。 ……この漫画に単行本4巻から登場している技と大して変わらない動きで、「テニス」ワールドでは平凡な部類。正直ガッカリしました。 ところが、数週間前のジャンプで、そんなCOOLドライブの新たな効果が発現しました。 今回の敵は、連載6年目にして初めて登場したデブキャラ(通称「テニスのハート様」)。前の相手がカスることもできなかったCOOLドライブを、見事ラケットに当ててみせます。 すると、ボールがラケットから腕へと転がっていってそのまま顔面を直撃! COOLドライブの正体は、「アストロ球団」の殺人L字投法と同じ原理で、対戦相手の殺害を目的とした技だったのです。
まあ、殺人L字投法のテニスへの応用は20年前の10週打ち切り漫画「ジャストACE」でもやっていたことですけど。 ところで、「テニスの王子様」の劇場版では、テニスをしながら宇宙に行ったり恐竜が出てきたり空を飛んだりといった怪現象を、高いクオリティでド派手に描写してくれました。 しかし、そのバカ演出の方向性自体はむしろ伝統的なもので、たとえば「爆転シュート ベイブレード」だって、ベイブレードをしながら宇宙に行ったり恐竜が出てきたり空を飛んだりします。 そういう意味で、劇場版は「他のスタッフでも作れるもの」です。しかし、原作漫画は、もっとあらぬ方向にトンがった感性が爆裂しており、作者本人以外には絶対に真似できないシロモノです。 以前のちゆニュースで、「テニスの王子様」をギャグ漫画と括りましたが、より厳密に言えば、ギャグ漫画のような楽しみ方もできるCOOL漫画という新ジャンルなのだと思います。 ですから本当は、「アストロ球団」などの過去の文脈と結びつけて考えるのも無理があって、私たちにできるのは、いったい次にどんなCOOLが提供されるのか呆然と見守ることだけだと思います。 ただ、個人的には、連載終了までに1度くらいテニスコートで人が死ぬところが見たいです。 ネットアイドルちゆは「テニスの王子様」を応援しています。 |
補足 | 「ベイブレード」で宇宙に行ったり恐竜が出てきたり | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
「テニスの王子様」の劇場版はとても素晴らしいバカアニメでしたが、その方向性自体は、他のアニメでも使われている伝統的なバカ演出を踏襲したものです……という話について、いちおう具体例があった方がいいかなということで、「ベイブレード」を例に説明しておきます。 まず、劇場公開前に「ジャンプ」で紹介されて話題になった「手塚ゾーンで地球が爆発する場面」ですが、これについては、同じことがベイブレードでも可能です。
「テニスの王子様」では、この爆発の後、なぜか地上が古代にさかのぼり、火山が噴火したり恐竜たちが逃げ惑ったりしました(スチール集)。 もちろん、同じような現象はベイブレードでも起こすことができます。
ちなみに、「テニスの王子様」では無敵の超奥義と化していた恐竜アタックですが、「ベイブレード」では巨乳パワーの前に敗れ去っております。
ここから、手塚ゾーンは巨乳に弱いという仮説が立てられます。 また、「テニスの王子様」の終盤で登場した舞空術も、一流のベイブレード使いなら当たり前のように体得しています。
あと、「テニスの王子様」ではスマッシュで竜巻とか津波とか炎とかが巻き起こりますが、その辺はベイブレードも得意とする分野です。
そんなわけで、1個のベイブレードは軍隊よりも強いという世界観。
最終回ではベイブレードのおかげで、世界が「北斗の拳」みたいな廃墟と化してしまいました。
この軍事兵器と、現実世界のクルクル回るだけのプラスチックとの落差を、「コロコロ」読者のチビッコたちが頭の中でどのように処理していたのか気になります。 ともあれ、優良バカ映画「テニスの王子様」も、宇宙や舞空術といった方向性自体は伝統に忠実だと言えるわけです。 というか、「マトリックス」でも何でもそうですが、限界の表現を追及していくと結局「ドラゴンボール」になってしまうという感じで、こういう映像を見るたびに「ドラゴンボール」の呪いの凄まじさを思い知らされます。 鳥山明先生は、自分ではほとんど何も描かなくなった今でも、世界中の人間に「ドラゴンボール」を作り続けさせているのです。 |