平成15年10月12日 | カレー将軍・鼻田香作 | |||||||||||||||||
料理で勝負する漫画は、たくさん作られています。 たとえば、少年チャンピオンなら、サメ肉の料理を作る際に材料の生きたサメを素手で倒すところから始める「鉄鍋のジャン!」。コミックボンボンなら、女の子が納豆のネバネバで動けなくなる「ビストロレシピ」……。
そんな料理勝負漫画の草分け的存在が「包丁人味平」です。 地雷包丁と称してマグロを火薬で爆破して刺身を作ったり、火炎放射器で魚を焼いたり、料理と言うよりは曲芸に近い技の連発。 さらに、味平が魚料理で勝負する時になって突然「実は味平は魚アレルギーだった!」と明かされるなど、「実は月光は盲目だった!」に匹敵する後付け設定もステキです。
ちなみに、無事に魚アレルギーを克服した味平は、お刺身をたいらげて「おれは今なにか自分自身がひとまわり大きくなったような気がする!」と大イバリでした。 なお、この漫画の原作者・牛次郎先生は、後に出家して住職になり(主な著書は「霊魂の書」「生と死の般若心経」)、奈良県厚生年金受給者のつどいで講演する(演題は「知らない世界」)などの活動をしておられます。 一方、作画のビッグ錠先生は、この後もラブホテル経営漫画「ごくらく王」などの素晴らしい漫画を描き続け、ミュージカル出演などで活躍しています。 さて、その味平の敵には、調理場にハエが1匹いただけで150人の料理人をクビにした包丁貴族をはじめ、変態料理人が多いです。 しかし、そんな中、ブッチ切りで人間を超越しているのは味平の父ちゃん。 その絶妙の包丁さばきにかかれば、鯛の生け作りも次のように……。
この父ちゃん、わりと親バカなので、味平のピンチには助けにきてくれます。しかし、そのお説教はもはや日本語として成立していません。 例:「ムリなことだとは、わかりきっている!! しかし…しかしっ!! ムリなこととは不可能ということではないっ」 ところが、そんな父ちゃんをも凌駕する究極のバカ料理家が、「包丁人味平」に登場していました。それがカレー将軍・鼻田香作です。 残念ながら知名度は低く、Google検索のヒット数は「味皇様」が1万6000件、「海原雄山」が8000件、「鼻田香作」が100件でした。 しかし、海原雄山が出現する10年も前にこんなにも料理に情熱を燃やしたアホがいたということを、この場で布教させて頂きたいと思います。 さて、鼻田香作が登場するのは、味平の全エピソードの中でも最も面白いカレー戦争編です。 ふたつのデパートが駅をはさんだ北と南に同時開店し、どちら側に多くの客が来るかがすべてデパート内のカレー屋で決まるという戦い。 単に美味しいものを作るのではなく、お子さまカレーで子供のハートをつかんで親を引っ張ってこさせるなどの駆け引きが熱いです。 味平と反対側のデパートのカレー屋を経営するのは、単身アメリカに渡ってスキヤキと天プラで大もうけして帰ってきた若き実業家・マイク赤木です。 「六年ぶりに母国へ帰ってきたおれには目的があった!! カレーライスでの日本征服だ!! 必ずやってみせる! いや、やらなければならないのだ!! なぜならわたしはマイク・赤木だ!!」 そして、そんなマイク・赤木をして、「この男をインドのレストランでみつけた時、わたしはこれで日本を征服できると確信したのだ!!」と言わしめる料理人がカレー将軍・鼻田香作です。 10歳の時からカレーのキッチンで働き、世界各国のカレーで有名な料理店を転々。 カレーの味を30年間追い求め、鍛え上げた鼻で6000種類のスパイスをかぎわける男。
モヒカンに鼻マスク……。19XX年に世界が核の炎に包まれていれば時代の最先端だったかも知れないファッションセンスです。 カレー戦争の中、味平のカレーに少しだけ客を奪われた鼻田香作は、こう言いました。 「クックッククク… カレー将軍とよばれ、カレーにかんしては世界中にも右にでる者はいないといわれる この鼻田香作のカレーの味にこれだけ接近したのは今までおまえひとりだ」 さすがカレー将軍、相手を褒めるためのセリフの半分以上が自分を褒める言葉に占められています。 そして、カレー将軍は、味平が苦労して作ったカレーを、ちょっと食べただけで完璧に再現。 その実力を見せつけられ、味平もビックリです。 しかし、そんなカレー将軍に対抗して、味平は「味平カレー」を完成させました。 その素晴らしい出来には、鼻田香作もうなります。 「カレー将軍といわれるこのおれでさえ、ほろぼれとするようなみごとな味だった…」 「世界中のありとあらゆるカレーを口にしてきたこのおれがはじめてであった味だ!!」 「カレー将軍といわれるこのおれでさえウットリしたあの味…すばらしいカレーだ」 もうカレーを褒めてるのか自分を褒めてるのかよく分かりません。 ともあれ、「あの味平カレーに! 味平カレーに勝ちてえんだ!」と、闘志を燃やす鼻田香作。 一方、実業家のマイク・赤木は、資本力を武器に値下げ攻勢で味平カレーを潰そうとしますが……。 鼻田香作「料理の勝負は味でつける!! 値下げ作戦など一流の料理人のすることではない!!」 マイク・赤木「し、しかし鼻田くん…それではキミが必ず味平カレーに勝つという確証はあるのかね!!」 鼻田香作「わたしはカレー将軍 鼻田香作だ」 そして、彼はついに究極のカレー・ブラックカレーを完成させます。 それは、まるでライスの上にコールタールでも流したような真っ黒のカレー。 見た目は「こんなのが くえるのだろうか」、味は「おいしいといえばおいしいのかな」という感じですが、なぜか一度食べると病みつきになってしまい、つい毎日食べに行ってしまうという魔術のようなカレーです。
このブラックカレーがとんでもない数の客を集め、さすがの「味平カレー」も完敗。ついに味平も敗北を認めます。
そして、ここからが「カレー戦争編」のクライマックス、鼻田香作ワンマンショーです。 「思い上がるんじゃねえぜ味平。いったいこの俺を誰だと思ってるんだね。いいか 俺はカレー将軍 鼻田香作だぜ」 「みろ この客たちを。みんな俺の作ったブラックカレーに酔いしれているじゃねえか。こいつらはもう俺のブラックカレーなしでは生きられなくなるんだぜ」 「その気になりゃあ俺は日本中の人間を俺のカレーのとりこにしてみせることだって出来るんだぜ クアーッカッカッカカカ」
「さあ みなの者 このカレーの神様の足元にひざまづくのだ!」 「俺は神様だ クァーッカッカカカカカ 神だ――っ」 ……実は、鼻田香作はすでにカレースパイス中毒で発狂していました。 そう、ブラックカレーは麻薬入りのカレーだったのです。
ちゆは、これほど衝撃的な結末を迎えた料理漫画を他に知りません。 料理漫画には奇作・怪作が多いですが、出発点がコレなら当然でしょう。 そして、鼻田香作の社会的最期を見届けた後、味平は次のようにつぶやくのでした。 「料理の道とはおそろしいものだ……一歩まちがえば優秀な料理人を廃人に化してしまう……」 もう絶対に料理がどうとか言うレベルではないのに、たった一言で料理の話として無理矢理まとめてしまった伝説の名言です。 ネットアイドルちゆはカレー将軍・鼻田香作を応援しています。 |
※前置き部分を微妙に改変(平成20年2月22日)