トップページ最近のニュース同じカテゴリのニュース

平成15年10月1日 「ガンダムSEED」最終回

 ガンダムシリーズの最新作、「機動戦士ガンダムSEED」が最終回を迎えました。
 「アニメージュ」の年に一度の人気投票では、2位の「あずまんが大王」の4倍近い票数で圧倒的な1位。日経新聞の記事にも「『第二次ガンダムブーム』ともいえる」ほどの盛り上がりだと書かれており、商業的にも成功したらしいです。

 そんなわけで今日は、この番組を見ておられなかった方向けに、「ガンダムSEED」とはどんなアニメだったのか、ご紹介したいと思います。
 毎週見てた方には今さらの内容ばかりで、申し訳ありません。また、ちゆの記憶だけで書いている部分もありますので、「〜について描写されてない」などは、単に見落としている可能性もあります。

 なお、「宇宙空間を羽ばたいて飛行する鳥型ロボット」など、SF考証の問題については、言い出したらキリがないのでなるべく触れないことにします。
 また、「ガンダムというタイトルでなければ別だけど、ガンダムとして見ると……」という見方も避けて、なるべく単体のアニメとして見たいと思います。


 主人公・キラくん


 第1話で、突然戦闘に巻き込まれた民間人のキラくん。なりゆきでガンダムに乗ることになると、いきなりガンダムのOSに文句をつけます。「無茶苦茶だ! こんなOSで、これだけの機体を動かそうだなんて!」
 そして、キーボードを叩き始めると、わずか数分でガンダムのOS書き換え完了。ガンダムの性能がバツグンに良くなりました。

 適切なたとえではないかも知れませんが、はじめてパソコンに触れる人が「このWindowsってヤツ、無茶苦茶だ!」と言って、その場でWindowsより高性能のソフトを開発してしまうような感じでしょうか。
 超人的な能力ですが、実は彼は、受精卵の段階で遺伝子を操作することで人為的に作られた、生まれつきスポーツ万能で成績優秀なイケメン君なのです。

 「SEED」の世界では、同じように遺伝子操作された人間がたくさんいて、その多くが宇宙コロニーに暮らしています。

 ナチュラル:普通に生まれた人。主に地球に住む。
 コーディネーター:遺伝子操作された優秀な人。主に宇宙コロニーに住む。

 そして、このコーディネーターとナチュラルが、戦争をしています。
 キラくんは中立の国に住む民間人でしたが、友達グループといっしょに戦闘に巻き込まれ、安全な地域まで、地球側の戦艦で移動することになりました。
 当然、地球側の戦艦なので、コーディネーター軍が攻撃してきます。しかし、ガンダムを上手く操縦できるコーディネーターは戦艦でキラくんだけ。そこで、自分と友人の身を守るため、キラくんはガンダムで戦うことになります。


 「一見〜ですが、実は……」


 そんな感じで、どうにか安全に戦艦を降りられる場所まで移動したキラくんたち。ところが、キラくんの友達の1人・フレイさんは、戦艦を降りないと言い出します。
 「これでもう安心でしょうか、これでもう平和でしょうか。そんなこと全然ない。世界は依然として、戦争のままなんです。私、自分は中立の国にいて、全然気付いていなかっただけなんです」「本当の平和が、本当の安心が、戦うことによってしか守れないのなら、私も……」

 自分の国のため、危険を承知で戦いたいという彼女。「自分だけ安全な場所にいられれば良い」という人が多い中、なかなか見上げた言動です。
 その発言に、友人たちも「フレイの言ったことは、俺も感じてたことだ」と同調。「それに、彼女だけ置いていくなんてできないしさ」と、同じく戦艦に残ることに決めました。

 ところが、「ガンダムSEED 公式ガイドブック」に掲載された福田監督のインタビューによると……。

このシーンは一見、友を思う仲間達を描いた感動的なエピソードに感じられますが、実はこれらは認めがたい行動を描いているんです。
彼らは熟考することなく、皆が入隊するならと軽い気持ちで戦場に残る決断を下した。いうなれば、学校などで友達同士、一緒にトイレにいたりしますよね。あれと同じです

 だったら、そこで感動的な音楽を流さないでくださいサントラによると、この場面で流れていた曲の名前は「平和の祈り」)。
 画面の上では肯定的に描かれていますし、そもそも「ここで戦艦を降りたら話が終わってしまう」「脇役の葛藤などに時間を割けない」という話の都合もあって、この辺りの展開は多少無理があってもお約束。そんな隠しメッセージを仕込まれても読み取れません。

 また、その友人たちのキラくんへの思いについて、福田監督は次のように述べています。

彼らは常にキラに軍に残ってもらいたがっていました。それは決してキラの身を案じているわけではなく、自分の安全のこととか、グループの連帯が心配なんです。
本当にキラのことを考えてあげるなら、(略)戦いに心を痛めているキラの気持ちを理解してあげるべきです。そしてキラをアークエンジェルから降ろしてあげようとするはずです

 ……あれ、そんな描写でしたっけ? ちょっとビデオ再生。

 艦に残る決意をした友人たちも、キラくんについては、「あいつは降りるよな、きっと」と考えています。
 そして、脱出用のシャトルに乗り込むキラくんに、自分たちは残る旨だけ伝えて、笑顔で別れの挨拶。「これも運命だ、じゃあな」「生きてろよ!」と、こころよくキラ君を送り出すのでした。

「じゃあな。お前は無事に、地球に降りろ」

 理解があって、思いやりもあって、キラくんは本当にいい友人に恵まれてますね。……って、こいつら、顔にも口にも心の声にも出さないけど腹の中はドス黒いという「設定」なんですか?

彼らは友情を誤解しているんですよ。そしてこれは現在の若者が抱えていることでもある。彼らを通して若者が誤解しがちな友情の矛盾点を描いていきたいと考えています。

 最初から難癖をつける目的で見たりしなければ、この場面の描写から「友情の矛盾点」は読み取れないと思います。劇中で肯定的に描かれていた内容に、「一見〜ですが、実は……」と後から言われても
 そんなにうがった見方をしなければ制作者の意図が読み取れないのでしたら、作った本人以外には絶対分かりません

 とは言え、視聴者が制作者の意図通りに作品を受け取る必要はありませんし、制作者が作品の意図やテーマを視聴者に伝えたくないということなら、何の問題もないんですけど。


 機動昼メロ戦士・種付けキラきゅん


 さて、もっともらしい動機を述べて軍に志願したフレイさん。ところが、実は彼女、前の戦闘で父親が死んだショックでおかしくなっていたのです。頭の中は、憎いコーディネーターを殺しまくってやるという復讐心でいっぱい。
 そこで、艦内で最大の戦力であるガンダムのパイロット・キラくんを、自分の体でたらしこむことにしました。「そうよ、みんなやっつけてもらわなくちゃ……」

フレイさん15歳、キラくん16歳

 そうして童貞(?)を捨てたキラくん。フレイさんに感化されて、性格も変わります。

 キラ「敵はどこだ!? ストライク、発進する!」
 副長「まだ敵の位置も、勢力も分かってないんだ。発進命令も出ていない」
 キラ「何のん気なこと言ってるんだ! いいから早くハッチ開けろよ!! 僕が行ってやっつける!!」

 ところが、実はフレイさんには婚約者がいました。それは、キラくんの友人の1人・サイくんです。
 突然婚約解消を言い渡されたサイくん、びっくりしてフレイさんを問い詰めますが……。

 フレイ「あたし、ゆうべはキラの部屋にいたんだから!
 サイ 「え……キラ? どういうことだよ、フレイ? キミ!?」
 キラ 「もうよせよ、サイ。どう見ても、キミが嫌がるフレイを追っかけてるようにしか見えないよ
 サイ 「なんだとぉっ!」
 キラ 「ゆうべの戦闘で疲れてるんだ。もうやめてくんない?

 さすがにブチ切れたサイくん、一発殴らせろと向かっていきます。しかし、相手は遺伝子操作で運動神経も超人レベルのキラくん。軽く腕をひねり上げられてしまいました。
 そして、とどめの一言。「やめてよね。本気でケンカしたら、サイが僕にかなうはずないだろ


 そのままサイくんを地面に投げつけ、しりもちをつかせるキラくん。友人の婚約者を寝取った上、これほどの屈辱を与えるとは。逆ギレにもほどがあります
 ちなみに、サイくんはこの後、キラくんに負けじとガンダムを操縦しようとしますが、まともに歩かせることもできなくて泣き崩れます

がっくり膝をついてコケるガンダム。その中の人も同じポーズで号泣するの図

 そして、勝手にガンダムを動かした罰として、1週間の営倉入りに。


 ちなみに、キラくんが勝手に捕虜を解放した時や、別の人が勝手に戦闘機を動かして撃墜された時は無罪でした。
 福田監督は、「キラは友達から差別を受けてる」つもりで作っていると発言していますが、放送を見る限りでは、キラくんはみんなから必要以上に優しくされ、サイくんだけ差別されているように思えてなりません。


 「敵を皆殺しにするまで戦争は終わらない!」

 ともあれ、キラくんの前に、すごく強い(という設定の)敵が現れます。その名は「砂漠の虎」。どの辺が虎なのかというと……。

衝撃の虎スーツ

 趣味が悪いとかそういう次元ではありません。ついでに、彼が乗る機体もモビルスーツと言うよりゾイドに近いものです。

 ともあれ、このコスプレイヤーが、キラくんに問いかけてきます。「戦争には制限時間も得点もない」「なら、どうやって勝ち負けを決める? どこで終わりにすればいい?」
 普通に考えれば、降伏文書に調印した時が終わりでしょう。しかし、さすが虎は一味違います。「やっぱり、どちらかが滅びなくてはならんのかねぇ?」

 そして、対決。キラくんの活躍で、戦闘は地球側の勝利に終わり、虎も「勝敗は決した。残存兵をまとめて引き上げろ」と部下に命令します。
 ところが、勝敗が決した自覚はあるのに、虎本人は特攻してきます。「言ったはずだぞ! 戦争には明確な終りのルールなどないと!」「戦うしかなかろう、互いに敵である限り。どちらかが滅びるまでな!
 何だかよく分からない信念に基づいて、「砂漠の虎」は死んでしまいました。

 外交の手段としての戦争なら、相手を滅ぼすまで戦う必要はありません。負ける側にしても、自分たちが滅びるよりは先に「これ以上戦争を続けても損なだけ」というラインがあると思います。
 しかし、どうも「砂漠の虎」の認識では、戦争は国益のためにやるのではなく、相手が憎いというだけの理由で殺し合うもののようです。そこに損得勘定はないので、当然、終了条件など考えません

 この場面だけ見ると、「砂漠の虎」が歪んだ戦争観を持った変態さんのようです。ところが、放送を見続けると、どうも「ガンダムSEED」世界の大人はみんな同じような認識らしいことが分かります。

 そこで、公式ガイドの福田監督インタビューを見ると……。

フレイは相手を全滅させないと戦争なんて終わらないと言いました。しかし、戦争とはそんな単純なものではない。殲滅戦は決して戦争の終結を意味するのではないと思います。

 いや、当たり前ですけど。というか、福田監督が「みんなは『相手を全滅させないと戦争は終わらない』と思っている」という前提で話を作っていることに驚きです。
 作ってる人の考え方が変だから登場人物も全員変になったということでしょうか。

 また、そもそも視聴者には「SEED」世界の戦争の原因が謎です。
 劇中では、戦争の原因はナチュラルとコーディネーターの間の差別感情だけで済まされています。しかし、両者の緊張が武力衝突に発展したきっかけは、地球軍がいきなり宇宙コロニーに核を撃って24万人を殺した事件。
 報復に核を撃ち返される可能性のある攻撃を実行するには、当然、その甚大なリスクに釣り合うだけのメリットがあったハズです。まさか「相手が憎い」というだけで、共倒れを覚悟して撃ったわけでもないでしょうし。しかし、その肝心な部分がサッパリ描写されていません

 もちろん、戦争が単なる舞台装置なら、開戦の経緯などには触れず、現にある戦争という状況の中でのドラマを描けばいいと思います。
 しかし、

どのように戦争を終わらせるのか、戦争の中でどこに未来や希望を見出していくのか、そういったメッセージをキラを通して伝える

 ……という話なら、戦争の終わらせ方に当然深く関わるだろう、戦争の発端をすべて裏設定にした意味が分かりません。

 余談ですが、「ニュータイプ」5月号のインタビューにて、両軍がどういう戦争の終わらせ方を想定しているのか、福田監督が答えてくれています。

ザフト(コーディネーター側)は、自治権を勝ち取るための外交の延長として、条件闘争をやっている形ですね。もちろん殲滅線をやるつもりはない

 ……そんな裏設定があったとは。本編には外交のガの字もありませんでしたけど。どうか「砂漠の虎」にその辺のところキッチリ教えてやってください

地球側としては、プラントの自治権を認めることは絶対にありません。もともとプラントは彼らの所有物、植民地ですし、地球はプラントの資源に依存しているという事情もあるので独立されたら逆に生殺与奪を握られてしまいます。譲歩の余地なしです。

 敵に資源を依存しながらの戦争……。その設定だと、現時点ですでに生殺与奪を握られていませんか? 状況が想像できません。

 また、脚本の吉野弘幸さんによると、初期の設定では、コーディネーターたちは外宇宙へ出て行きたがり、ナチュラルたちは出て行かれたら困ると言って戦争になった、という話を組んだとのこと。
 どうも、この肝心の戦争の原因について設定が確定していないか、少なくともスタッフ間で共通の認識がないようなフシがあるのですが……。「相手を皆殺しにする」以外の戦争終了パターンが登場人物の誰にも想定できない理由がそれだとしたら、いくら何でもあんまりです。


 マルコ・モラシム

 砂漠の虎の次に出てきた敵は、マルコ・モラシムという名前。アナグラムすると「シモムラ・コマル」となり、設定制作の下村敬治さんとの関連が気になります。そして、公式ホームページの下村さんのコラムを読むと……。

シナリオ打ち合わせ。監督が「ちょっと思ったんだけどさー」 この一言で時々驚愕の設定持ってくるんで現場の人間にも先が読めないのです(笑)

 ああ、下村さん困ってるんですね(福田監督に)。それで、キャラクターにそんな名前付けちゃったと。


 強引な恋愛

 子供向けの漫画やアニメでは、恋愛にも「捨てられた子猫を可愛がる意外なカレの姿に一目ぼれ」といった分かりやすい説明描写が付きます。
 でも、恋愛に理由はありませんし、「なんでこの娘がこんなヤツのことを?」と思うことは現実にもザラ。アニメでも、恋愛描写を変に説明的にしなくてもいいと思います。

 しかし、やはり物には限度というか、「ガンダムSEED」で繰り広げられる強引なカップリングには違和感があり過ぎます

 たとえば、コーディネーターのDさんの場合。
 戦闘で捕虜になったDさんが、拘束されて医務室のベッドで寝かされていました。すると、そこにナチュラルの女の子が入ってきます。なぜかおびえているようなので、軽く話しかけてみると……。


 彼女はこんな形相で、泣き喚きながらDさんの顔面に向かってナイフを振り下ろしてきました。間一髪、よけるのが遅ければDさんは死んでます

 ……どうやら、彼女は先の戦闘で彼氏が死んでしまったらしく、自分のカレが死んだのに、こんなコーディネーター野郎が生き長らえているのが許せなくなり、捕虜のDさんを殺そうとしたみたいです。

 それ以来、Dさんは何となく彼女のことが気になるようになりました。どうやら彼女を好きになってしまったようです。
 Dさんは所属していた軍も勝手にやめて、彼女といっしょにテロリストとして戦うことに決めました(もちろん母国に帰れば極刑でしょうし、Dさんは軍の要人の息子なので家族にも迷惑がかかるでしょうが、そういった葛藤をDさんはテレビ画面に出しません)。

 ちなみに、設定によると、Dさんは「狡猾な性格」だそうです。


 人間ポップコーン

 プロデューサーの竹田青滋さんのインタビューによると、

戦争というのは麻薬や強盗などの犯罪レベルの暴力じゃないということをみんなにわかってほしいし、圧倒的に悪なんやでというのとを知ってもらいたいんです。そのために戦闘シーンや殺戮シーンは酷く描かないと怖さが出ない

 ということで、

ひでぶ! あわびゅ! たわば!

 ……「戦争の怖さ」が「北斗神拳の怖さ」と同じベクトルですが、土曜夜6時の地上波でコレをやったこと自体がエラいような気もします。


 ヒロイン(?)・ラクスさん

 キラくんには、コーディネーターの親友がいます。その親友にもやはり婚約者がいて、名前をラクスさんといいました。
 そこでキラくんは、再び寝取り属性を発動。最終回の前には、キラくんはフレイさんと別れてラクスさんとラブラブになっていました。

 さて、そのラクスさん、無防備にパンモロを見せるなど、序盤は単なるおつむの弱い人として描かれていました。

おもむろに脱ぐ

 ところが、福田監督のインタビューを見ると……。

彼女は観察しているんですよ、アスランを、そしてキラを。(略)半分くらいは天然ですが、自分を演じることもできる。

会話の端々に意図的にいろいろな言葉を置いていって、アスランという人間がどういう人間なのか、ずっと試していたんです。

ラクスの台詞で「なにと戦わねばならないのか…、戦争は難しいですわね」というものがあります。彼女はそのことをわかっている人間なんですよ。

 パンツを見せたりしながら、相手が自分にとって「使える」人間かどうか試していたとのこと。やな奴ですね。確かに劇中でも、自分の考えを聞かれると答えをはぐらかして「あなたは?」と聞き返す場面が多かったです。
 しかし、たまに彼女が自分の考えを口にするときも、思わせぶりなだけで具体性は皆無でした。「戦争は難しい」発言にしても、それ以上の言及は一切なかったので、それが経験からくるものなのか、本で得た知識なのか、とにかく悟っているのか、映像からは一切分かりません。

 そして、物語終盤。ラクスさんは戦艦を盗み、ナチュラル側でもコーディネーター側でもない第三勢力を結成します。
 ところが、ラクスさんがその軍勢で何をしたかったのか、視聴者には分かりません。とりあえず攻撃されたら撃ち返すなど、最後まで行き当たりばったりな行動しかしていなかったように見えます。

 ちなみに、最終回の直前にラクスさんが長々と語っていたセリフは、「わたくしたち、人は、おそらくは、戦わなくても良かったはずの存在……。なのに、戦ってしまった者たち。何のために? 守るために? 何を? 自らを? 未来を? 誰かを撃たねば守れない未来、自分、それは何? なぜ? そして、撃たれた者にはない未来。では、撃った者たちは? その手につかむ、この果ての未来は? 幸福? 本当に?」
 ただ思いついた疑問を羅列しただけの中学生ポエムに見えますが、最後までこんな感じで、問題提起以上のことは口にしませんでした。

 どうも福田監督の脳内では彼女はスゴイ人物らしいのですが……。劇中の描写からは、「実は分かっている人間」と言うより、「天然に見せかけているけど実は分かっている人間のように見せかけてやっぱり天然」に思えます。


 状況の変化

 コーディネーター側のガンダムのパイロットは、キラくんの親友です。そこで、物語の中盤までは、「敵味方に分かれた親友同士が、それぞれの正義のため、ガンダムで戦う」というコンセプトでした。
 ところが、そんなキラくんと親友も和解。2人で仲良くラクスさんの第三勢力に加わり、いっしょに戦うことになります。ついでに実は生きていた「砂漠の虎」も仲間になりました

 一方、コーディネーター側もナチュラル側も、それぞれ軍のトップがキチガイ化。大量破壊兵器を撃ち合う殲滅戦を始めます。
 朝日新聞の福田監督インタビューによると、「世界大戦的な戦争をリアルに描く」ことを目指していたハズですが、いつのまにか「悪いヤツのせいで戦争が起こっている。正義の主人公たちが行っくぞ〜!」という構図になってしまいました。


 最終回「終わらない明日へ」

 「TV Bros」の福田監督インタビューによると……。

今回の基本はですね、言葉で解決できなきゃダメということです。
これは「ファースト」のニュータイプに対するアンチテーゼなんですけれど、人と人とが心で分かり合えるなんていうのは嘘なんですよ。何もしないで分かりあえるわけないというのがあるんです。(略)言葉でぶつかり合えないと、後はどちらかが滅ぶまで殺しあうしかない。どんな問題でも言葉で解決するしかないというのが、「SEED」で一番出した部分ですね。
ですから、キラとアスランが和解したように、全ては話し合いで解決していく物語になっているんですよ。

 これを踏まえた上で、いよいよ最終回。
 「SEED」のオープニング主題歌の出だしは、「たどりつく〜場所さえも〜分からない〜♪」ですが、まさにそんな感じの内容です。

 さて、キラくんは物語序盤で、自分を慕ってくれていた女の子が乗った脱出シャトルを目の前で落とされ、ずっと後悔していました。
 最終回でも、それと同じようなシチュエーションになります。元彼女のフレイさんの乗った救命艇が、敵に落とされそうになったのです。「今度こそ助ける」と思ったのも束の間、敵の攻撃が救命艇を直撃。フレイさんは死にました

 ところが、キラくんの前に、フレイさんの幻覚が現れます。
 「ありがとう……ごめんね……ずっと、あやまりたかった……(略)……あなたはもう、泣かないで……(略)」

 しかし、その後のキラくんには大した活躍もありませんし、最終回でわざわざ同じ失敗を繰り返した意味もよく分かりません。フレイさんに謝らせるだけなら死ななくてもできますし
 過去のガンダムの名場面を形だけ真似しておけば、ガンオタが絶賛してくれるとでも思ったのでしょうか。

 ともあれ、両軍のトップ(みたいな立場の人)も、それぞれ次のような最期を迎えます。

 ナチュラル側:戦闘中、戦艦のブリッジで艦長と軍のトップが仲間割れのケンカ(片方が発砲)。他の乗組員はどちらの味方をするでもなく、2人をブリッジに残して全員退去。そのまま敵艦に撃たれて、戦艦大破。
 コーディネーター側:最高評議会の議長が、命令を聞かない部下を撃つ。撃たれた部下も撃ち返し、議長は死亡。直後、武装した敵兵が乗り込んでくるが、その場にいた他の軍人は全員戦いもせず持ち場を放棄して逃亡

 ……軍人たちのありえない行動の連発に、「砂漠の虎」が優秀な軍人だと言われていたのが納得できました。

 そこで、コーディネーター側の軍を、ほとんど何の伏線もなく現れた穏健派の議員が武力制圧。「現在、プラントは停戦協議に向けて準備をはじめています。それに伴い、プラント臨時最高評議会は、現宙域におけるすべての戦闘行為の停止を、地球軍に申し入れます」というアナウンスをしたところで、エンディングテーマが流れ出しました
 両軍とも戦力は残っていますし、これまでの描写がお互いに訳の分からない憎しみだけで殺し合っている異常な状況だったこともあって、視聴者には、この唐突な描写で戦争が終わったとはとても思えません

 また、もしもこの最終回で「話し合いでの戦争解決」が実現されたのなら、その最大の功労者はほとんどエキストラに等しい脇役に過ぎなかった穏健派の議員です(視聴者のほとんどは「誰この人?」という感じ)。
 スタッフのインタビューなどによると、どうも穏健派の議員さんたちはテレビに映っていないところで色々と活躍していたようなのですが、何しろそんな描写は1つもありませんでした

 一方、キラくんやラクスさんは、発射された核ミサイルを撃ち落とすなど、戦闘中に対処療法で死傷者数を減らす努力で精一杯。戦艦を盗み出すくらいですし、もちろん「話し合いによる解決」など念頭になかったと思われます。
 主人公たちの存在は何だったのか、特にフレイさんの犬死にの意味が分かりません。

 そういえば、「砂漠の虎」との問答以来、戦う理由について悩んでいたキラくん。ラクスさんに影響され、物語中盤〜終盤では、「僕たちは、と戦わなきゃならないのか、少し分かった気がする」「こんなことを終わらせるには、と戦わなくちゃいけないと思いますか? 僕は、それと戦わなくちゃいけないんだと思います」などと発言するようになりました。
 しかし、キラくんが思う「それ」とは「何」なのかは、最後まで説明はありませんでした。もちろん、キラくんが「それ」と戦う描写もありません。あの発言のとき、彼はいったい何と戦うつもりだったのでしょうか。とりあえず、自分の意見は思わせぶりにほのめかし、難しい問題を他人に問いかけるだけの態度はラクスさんそっくりでしたけど。

 そんなこんなで、何もかも放り投げられた脱力の最終回でしたが、スタッフロールが流れ切った後で、主人公であるキラくんが、締めの一言を漏らします。

 「どうしてこんなところに来てしまったんだろう、僕たちの世界は……」

 それはひょっとしてギャグで言っているのですか?
 聞きたいのはこっちです。本当に、どうしてこんなところに来てしまったんでしょう、このアニメは


 まとめ

 公式サイトのインタビューで、福田監督はこう述べました。

ガンダムっていう看板を掲げているからには(略)未来に対するなんらかの希望、道標、解答を描く作品を創りたい

 福田監督は、これに失敗してしまったのでしょうか?
 いえ、違います。実は「TV Bros」のインタビューにて、「問題提起に対する解答の部分は、最終回で描かれるんですか?」と聞かれた監督が、次のように答えています。

答えはね、エンターテイメントは提示しないものですよ。それが感じられればいいんです

 そう、「人間は言葉の動物」で、「人と人とが心で分かり合えるなんていうのは嘘」ですけど、なんか感じられるんです!
 ……「SEED」の場合、異常な描写不足に加えて「一見〜だけど実は……」という演出フェイクもあるので、もはやニュータイプじゃないと感じ取れない領域だと思いますけど。

 ともあれ、公式ホームページのインタビューにて、福田監督が「一番注目して欲しい点は?」「ストーリーです」と答えているにも関わらず、同じホームページのアンケート「SEEDのここが好き!」では「お話が面白い」という意見が最少数派でした。

 確かに、戦闘描写が楽しめる回もありましたし、面白いキャラクターもいました。でも、少なくともストーリーに関しては、最終回まで見て脱力感しかありません。
 他の平成ガンダムに比べて「SEED」が良かった点として、ちゆが自信を持って挙げられることと言えば、エロ同人誌のネタにできる女性キャラが多いことくらいでしょうか。

 どうしてこんなところに来てしまったんだろう

 RSS2.0


トップページに戻る