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平成18年4月1日 「薔薇族」が復刊してからまた廃刊になるまで

 平成16年の9月に、「薔薇族」が廃刊になりました。

 編集長によると、インターネットの普及につれて、急降下で売れなくなっていったとのこと。
 薔薇族の文通欄は、「893関係の親父さん、兄貴と交際したいです。僕を優しく抱いて下さい」「薄いビキニ1枚で激しいセックスをしませんか。スーパービキニ1枚でモッコリ部分をコスり合わせたり」といった出会いの場になっていましたが、その機能がネットに移ったのが大きいようです。

 しかし、最初は薔薇族のパクリ雑誌みたいだった「バディ」は、若者をターゲットにした内容で独自性を見い出し、現在はホモ雑誌界の売り上げナンバー1となっています。
 その辺に可能性を見い出したのか、メディアソフトという出版社が名乗りをあげ、平成17年4月から「薔薇族」の復刊が決定します。

 メディアソフトの広報部によると、「現代のニーズに合わせてリニューアルすれば、ゲイ読者はもちろん一般読者も獲得できる」とのこと。編集長も「オタク世代も取り込んでいきたい」と発言しておられます。
 どうやら、ちゆのようなオタク世代の一般読者取り込みターゲット層に入っているらしいということで、以下、その目線から、復刊後の「薔薇族」を読んだ感想などを好き勝手に書かせていただきます。


 表紙の変化


 とりあえず目立つのは、表紙の変化です。

『薔薇族』 1984年3月号 表紙 『薔薇族』 2004年11月号 表紙 『薔薇族』 2005年6月号 表紙
廃刊号 復刊号

 「薔薇族」の表紙といえば、長い間、木村べん先生や内藤ルネ先生のイラストでしたが、それも時代の流れで変化。廃刊前の1年ほどは、なぜかどこかで見たような男の子の似顔絵でした。
 復刊後は、男の子の写真を中心に記事内容や執筆陣を紹介する形で、要するに「バディ」みたいな表紙になりました。

 表紙のモデルさんは、最初はホストみたいなイケメンの兄ちゃんが多かったのですが、その後、短髪系に移行。
 この辺の選択は難しいらしく、読者投稿欄を見ても、「復刊号の表紙は美しいです。男の性欲をかりたてるグラビアである」という声もあれば、「カラーグラビアがガキジャリ路線で、嫌悪感の何ものでもありません。自分の孫世代の裸体を見たくも興味もありません」という意見も寄せられています。


 やおいへの興味


 復刊2号には、「異性愛者の眼に、同性愛はどのように映っているのか」という主旨で、ノンケのエロライター・安田理央さんにインタビューする記事がありました。
 インタビュアーの編集さんは、ボーイズラブ好きの女性層を「薔薇族」の読者にできないかということに興味津々で、その辺を質問します。


 安田 うーん……。けど、あれは完全にゲイとは関係のない世界だからねぇ。(略)あのへんを上手く取り入れていければ、『薔薇族』も部数を伸ばしていけるんじゃないかなぁ、と思いますよ。でも、実現は難しいんだろうねぇ


 「やおいもホモも似たようなもの」という誤解は意外と多いのですが、安田さん、ちゃんと完全に関係のない世界と仰ってくれました。
 それを受けて、編集さんは……。


 ── 私としてもそのあたりはずっと前から考えてるんですが、バランスのとれる作家というのがなかなかいないんですよねぇ。やおい系のファンと、ゲイの読者双方に納得してもらえるような作品の描ける人が。たとえば、男同士の正常位なんてものが平気で出てきてしまうようなものでは、ゲイの賛同は決して得られないだろうし(笑)


 なんだか微妙に理解されていないような気もします。
 確かに、女性向け漫画誌を、もう少しホモの方でも読みやすい方向に直すことはできるかも知れませんが、「薔薇族」を延長してオタク女性層が買うものにするのは、ほとんど不可能でしょう。

 でも、実体験がある人からすれば男同士の正常位はリアリティがないというのは一般読者には新鮮な情報で、またひとつ賢くなれました


 仮面ライダー響鬼


 復刊3号の「子役の小箱」というコラムでは、編集さんが「仮面ライダー響鬼」明日夢くん(栩原楽人)を見た感想が載っていました。


 この子がまためっぽう『キャワユイ』のである。
 柔らかそうな髪、ふっくらとした薔薇色の頬、くりくりとした黒目がちの瞳、そして何より、大好きなヒビキに対する一途な想いがいじらしくてたまらない!


 ……ほっぺや瞳はさて置き、明日夢くんのヒビキさんラブラブっぷりが良いというのは、わりと共感できます。
 そういえば、コミケで買ってきた女性向け同人誌の中にも、ヒビキさんに影響された明日夢くんが「鍛えてる男の人ってイイよね…」とホモ雑誌のグラビアを眺めてうっとりするというギャグがありましたし、この辺は接点になり得るのかも知れません。

 とか思ってコラムを読み進めると、第15話を見た感想では……。


 盲腸を手術した明日夢が退院し、自室で傷跡をおそるおそる確かめようとするシーンである。
 パジャマのズボンも、その中のアンダーウェア(ボクサーブリーフ?)も、かなりキワドイところまで引き降ろされ、形のいいおヘソのかなり下のまでもカメラは克明に映していた。あのカメラマンになりたい〜、と身悶えた人間は決して少なくなかったのではないだろうか

 (略)

 あのシーンを見る限り、楽人くんの第二次性徴はかなり遅めのようである。ほっぺと同様、柔らかそうな下腹部には、発毛の兆しのようなものはほとんど認められなかった
 あるいは、今回の撮影のために、わずかに生えはじめていたものを自分で処理してしまったとか? それはそれで、また大いにソソらせれる話ではあるよなぁ。

 ……すみません、やっぱり見てるとこ違いました


 ゲイも満足! 一般エロ漫画


 復刊7号には、「ゲイも満足! ここまでキてるか! 男子エロ表現! ノンケエロ本屋でノンケのふりして見てみよう!」という特集がありました。

 一見、「バディ」のボーイズラブ特集に似ているようですが、やおい系の話題は取り上げず、男性作家が描いた作品ばかり、それも、特にチンコの描写が良いものを中心に紹介しているのが特色です。

 とりあえず、一般エロ漫画全般の感想は……。


 筆者のようなゲイが見た場合の欠点を言ってしまうと、男のほうは上着を着ている描写が多く、それだけは不満である。しかし、セックス描写の細かさは男女にかかわらず見ごたえは充分。(略)男性器の描写も硬さが伝わってくるようだ


 作家別では、鬼窪浩久先生は「チンコの描写が凄い」「チンコはデカデカクッキリ」、ひんでんブルグ先生は「描写や展開のイヤらしさには定評があり最高にソソられる」という感じで紹介。
 ちゆもコラムを書かせて頂いた「少年愛の美学」シリーズも「筆者お勧め」という評価を頂いており、ありがとうございます。

 また、秋緒たかみ先生の作品は、射精時にチンコが締まる「キュウッ」という擬音を入れたりとか、一般エロ漫画の文脈から出てこないような表現が多くて凄いと思っていたのですが、この特集でも「チンコの柔らかみ暖かさが伝わってくる」などと特に高い評価で、やはりホモの方が見ても良いみたいです。


 男の補習


 復刊後の「薔薇族」で印象的だった漫画は、3号目に掲載された、千歳アキラ先生の読切「男の補習」です。

 主人公は、ちょっとナヨナヨした学校の先生。教え子の男らしい不良・大岩くんに密かに惚れています。

 授業中、大岩くんに教科書を読めと命じた先生。大岩くんが立ち上がって教科書を読んでいる間、密かに苦悩します。
 「大岩…そんなに素直に立たないでくれ… どうしておまえのような男が… こんなせまい教室で そんな小さな椅子に座り… ボクのような男の言うことをきいて大人しくしていなければいけないのだろう? そんなおまえを見ているのがつらい…
 「大岩… こんな画一的な教育が おまえのような野獣に必要なのだろうか… そう おまえは野獣なんだ 何者にもひれ伏すことのない たくましき野獣なんだ サラリーマン教師のボクの言うことなど聞くな!!

 そして、先生の妄想がスタート

 妄想の中の大岩くんは、先生に教科書を読めと命令されると、「おまえのような教師野郎が… このオレに指図するんじゃねえよ おまえ『男』ってもんが分ってねえだろ?」と凄み、「見ろッ!! これが『男』だよ」と叫ぶと制服を脱いで全裸になり、勃起したチンチンを見せつけます

『薔薇族』 2005年8月号 89頁

 先生の服をひんむいた大岩くんは、「かわいいケツしてるな おまえ こんなケツしながら このオレに命令など千年早ぇッ!!」とスパンキング。さらに、「おまえにもっとも不足しているのは『男』だ」「てっとり早いのは男のエキスの…直腸注入!!」と挿入します。
 先生は、「ああ…大岩のエッチーッ!!」と大喜び。

 大岩「オレはまわりくどいことはせん!! 直接核心に突くッ!!
 先生「すごいッ!! 大岩って男!! 大きすぎるッ!! たくましすぎるッ!!
 大岩「くらえッ!! 『男』をッ!!
 先生「ひゃぁあーッ!!

 ……という感じで、妄想シーンが終了。

『薔薇族』 2005年8月号 96頁

 その後、大岩くんと2人だけの放課後の補習授業の場面に移り、大岩くんが「かわいいケツしてるな」などと言ってきて、妄想が現実になりましたというハッピーエンドでした。

 70年代の漫画みたいな表現と最近っぽい白目をむいたアヘ顔が混在する不思議な画風など、オタク読者にも興味深いところが多い作品です。
 ちなみに、2号後の読者投稿欄には、「『男の補習』に興奮しました」という50歳の方からのお便りも届いていました。


 再廃刊


 そんな「薔薇族」も、結局復刊8号で再び廃刊
 編集長によると、「『薔薇族』もネットという、わけのわからないものに毒されてしまったということだろうか」「若者にターゲットをしぼったものの若者にそっぽをむかれてしまった」とのことでした。

 でも、オタク読者の視点から見ても、唐沢俊一さんの対談や木村べん先生の特集など、読み物ページのほとんどは作り手の意図通りに面白かったです。

 特に、復刊3号〜4号に掲載された、田亀源五郎先生や竹熊健太郎先生が石原豪人先生について語ったトークライブを文字に起こしたものは、後世に残すべき貴重な資料だと思います。
 2人の男が絡んでいる上空に親父とペガサスが浮かんでいるイラストをホモの方はどのように見るのかを田亀源五郎先生が直々に解説してくれたり、読みごたえがあって勉強になります。

 ※石原豪人先生……怪獣ものや大図解、「ファミ通」にやたら艶めかしいマリオを描いたりといった幅広い仕事で知られる、挿絵界の怪人。オタクは「坊ちゃん」を読んで女中の清に萌えたりしますが、石原豪人先生の「謎とき 坊っちゃん」によると「坊ちゃん」は実はホモ小説で、清も本当は「キヨシ」というオカマなのだそうです。

 そんなこんなで、「薔薇族」ならではのテーマの読み物記事の数々は、もっとオタク層に受けても不思議はなかったと思いますが、やっぱりそもそも「薔薇族」の看板で一般読者を取り込もうとすること自体に無理があったみたいです。

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