平成14年1月31日 | 「精神分裂病」が「統合失調症」に |
ドラえもんの秘密道具に、狂時機(マッド・ウオッチ)というアイテムがありました。ところが、単行本の最近の版では、名前が驚時機に変更されています。 そんな感じで、「ぞう気ちがい」は「ぞうが大すき」に、「ノータリン」は「大ばかやろう」に、「怒りくるう」は「怒りまくる」に…。「ドラえもん」の過剰な自主規制は有名です。 さて。日本精神神経学会の決定により、「精神分裂病」が「統合失調症」に変わるそうです。 そう聞くと、ドラえもんと同種の「言葉狩り」的なものを連想される方もあると思いますが、今回はそれとは少し違うかなと思います。 精神分裂病の主な症状は、幻覚・妄想など。たとえば、「いつも誰かに見張られている」「私は宇宙人と電波で交信している」といった感じです。 若い時期に多く、100人に1人がかかるそうです。症状には個人差がありますが、多くの場合、治療を受ければ自立した生活を送れるくらいには回復します。 たまに混同されますが、「多重人格」とは違います。 そういえば、TRPG「ガープス」の旧版でも「多重人格」の意味で「精神分裂」という言葉が使われていて、なんだか紛らわしかったです。 さて、「精神分裂症」と名付けられた経緯ですが、最初は、見た目の症状が老人のボケと似ているため、早発性痴呆と名付けられました。 ところが、後にブロイラーという人が別に「早発」でも「痴呆」でもないとして、Schizophrenie(精神分裂)に改めました。日本でも、これを直訳した「精神分裂病」が使われています。 ブロイラーがSchizophrenie(精神分裂)としたのは、この病気の本質が“連想の分断”にあると考えたからです。 しかし、その考え方はすでに古いもので、病気の実態を適切に表わした名称でもありません。 そして、その直訳の「精神」が「分裂」するという日本語のインパクトある語感が問題になりました。 患者さんが病名を聞くだけで余計なショックを受けたり、告知しづらいことで十分な説明と理解が妨げられたり、適切な治療に支障をきたすケースが多かったのです。 そこで、原語を「統合失調症」に意訳し直すことになりました。 これが、たとえば「昔の漫画の『精神分裂病』の記述は『統合失調症』に修正する」など、過去の名称としての「精神分裂病」まで排除する話でしたら反対です。 しかし、社会的な不都合を減らして学問的に正確に近づくための単なる変更ならば、病名くらい変えて然るべきだと思います。 ただ、何の統合が失調されているのか分からないなど、「精神分裂病」に比べて「かえって意味が不明」という意見も一理ありますが…。 たぶん、この場合「下手に誤解されるくらいなら、何だか分からない方がマシ」ということなのだと思います。 なお、当初はブロイラーの名前をとった「ブロイラー症候群」が有力候補でしたが、日本食鳥協会の抗議で見送られました。 「ブロイラーという名称は鶏肉の総称として世界的に広く定着しており、病名に同じ名称が付されることは、鶏肉のイメージを著しく損ねる」「あたかもブロイラーを食すると、このような病気になるかのように思う人も多くなる」とのことです。 ちなみに、“全国精神障害者家族会連合会”が新聞広告などで広く募集した新名称案は、「ストレス性おつかれ症」「精神オーバーヒート症候群」「コスモス(宇宙)病」「マイッタ病」「友人喪失病」「ハートブレイク症」「脳みそバーン病」等々。 「人間らしい病」「こころの病」「精神回復可能病」など、言いたいことは分かりますが病名としては野心的すぎるアイデアもありました。 そうそう。この名称問題は日本だけの話題で、海外では変わらずSchizophrenie(精神分裂)で通っています。言葉が難しいラテン語のため、日本語の「分裂」のような語感の問題は起こらないそうです。 この辺り、国際的でなくなるので、お医者さんとしては少し面倒になるのかも知れません。 ネットアイドルちゆは、精神分裂病の方々を応援しています。 |