昔のちゆニュース


平成20年2月〜4月

02月14日:MMR緊急報告 人類はネット右翼になる!?
03月04日:「なんだってー!」と「なんですってー!」の使い分け
03月18日:本当は面白い「アイマスXENOGLOSSIA」
03月30日:「巨人の星」の左門の妹は年をとらない
04月13日:講談社漫画賞をドラゴンボールが受賞できなかった理由


平成20年2月14日 MMR緊急報告 人類はネット右翼になる!?

 平成17年の3月ごろ、ネット上の言論に関して、とてもユニークな説が提唱されました。
 それによると、「侍魂」や「ちゆ12歳」などのテキストサイトを作ったのは右翼企業で、「ネット右翼」というのは、その煽動工作に騙されたオタク系の若者たちなのだそうです。

キバヤシに叫ばせてみるとこんな感じ

 現在では、この主張を支持していたブログが「盗聴されたから」という理由で閉鎖するなどして、経緯の確認が難しくなってしまいました。
 しかし、「ネット右翼」に関する色々な話題の中でもひときわ珍妙な出来事ですし、教科書には載らないインターネットの歴史のひとコマとして、一度まとめておきたいと思いました。

 まあ、ちゆはいちおう疑惑の当事者なので、あまりネタ的に取り上げるのもどうかと思いますが、3年ほど何の進展もない話ですし、せっかくだから全部「MMR」で紹介させて頂こうと思います。

 続き→「MMR緊急報告 忍び寄る悪魔の右傾化扇動工作 人類はネット右翼になる!?」


平成20年3月4日 「なんだってー!」と「なんですってー!」の使い分け

 昔、マガジンに「MMR」という漫画がありました。

 「イースター島に超古代文明を築いた超古代人は日本人の祖先だったんだよ!!
 「な 何だって───!?」

 ……といった内容から、「MMR」といえば「なんだってー!」というイメージですが、実は、たまに「なんですってー!」と叫ぶこともあります。

『MMR』 第09巻155頁

 そう、「MMR」の隊員は講談社の社員
 当然、ビジネスマナーは完璧なので、たとえ破滅の危機に驚愕していても取材先では敬語を忘れないのです。



 また、リーダーであるキバヤシへの口のきき方は、

 ・ナワヤ
 ・ナワヤ以外の隊員
: タメ語
: 敬語

 ……という序列なので、キバヤシの台詞に対しては、ナワヤ以外の隊員は「なんですってー!」と叫ぶのが本来の形ですが、

『MMR』 第13巻131頁

 叫び声がバラバラだと決まらないので、4人の時はナワヤの「なんだってー!」に揃えているようです。

 もちろん、ナワヤが参加しない時は、

『MMR』 第11巻048〜049頁

 ちゃんと敬語になります

 つまり、下っ端の隊員たちは、人類滅亡の恐怖におののきながらも、いちいちナワヤの存在によって「なんだってー!」と「なんですってー!」を使い分けているのです。



 ……と、ここで終わればキレイにまとまったのですが、実は1回だけ、ナワヤがいるのに「なんですってー!」と叫んだ例外があります。

  ↓断言中のキバヤシの足
『MMR』 第07巻131頁

 えっと、これについては、「実はこのときのナワヤには地球外生命体が憑依していたんだよ!」とか、「ナワヤとタナカを入れ替えるとカタワになる!」とか、いろいろ考えてみたのですけど、あまり面白い説明にならなかったのでやめておきます。
 まあ、普通に「タナカが間違えた」とかでいいんじゃないでしょうか(ネギを振り回しながら)。

 そんなこんなで、社会人たるもの敬語は大事というお話でした。

 そういえば、最近の「問題提起コミック」シリーズでは、リーダーのスズキが、4人の部下のうちナワヤにだけ「さん」付けなのですが……。

『少年マガジン』 2007年10号 203頁

 副編集長のスズキが、いまだにヒラ編集のナワヤに敬語を使う理由は、年上の部下というやつかと推測されます。
 この辺、読者のチビッコが混乱しそうな気もしますけど、正しい敬語のためなら読者への配慮など要らぬ!という判断なのでしょう。

 ネットアイドルちゆはナワヤさんを応援しています。


平成20年3月18日 本当は面白い「アイドルマスター XENOGLOSSIA」

 芸能事務所のプロデューサーになってアイドルを育てるゲーム「アイドルマスター」が、昨年、テレビアニメ化されました。

 当然、「アイドル伝説えり子」みたいな芸能界サクセスストーリーになるかと思いきや、アニメの制作者は、「ガンダムやイデオンに憧れてサンライズに入社した僕としては、巨大ロボットという伝家の宝刀をこの大きな企画で出したかった」などと、訳の分からない発言。

 その結果、ゲームでは単なるアイドルだった春香ちゃんが、アニメでは身長30メートルの巨大ロボット「インベル」に乗って戦うことになりました。
 これにはAmazonのレビューなどでも、「ここまで支えて応援してきたファンを裏切り見捨てた」「(ファンにとって)これほど屈辱的な作品はない」といった声が多いです。

 そんなわけで、最初の一歩で致命的に足を踏み外しているテレビ版「アイマス」ですが、これを実際に見てみると、作品自体のクオリティは大変高く、それでいて実は二歩目も踏み外しており、三歩目以降は空中を歩いているのが分かります。

 そこで今日は、テレビ版「アイマス」がどんな内容だったのか、ネタバレ全開で簡単にご紹介したいと思います。



 まず、第1話の冒頭は、いちおうアイドルのオーディションからスタートします。

第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より

 ところが、このオーディション、実は参加者以外はすべて仕掛け人

 本当は、主催者が探しているのはアイドルではなく巨大ロボのパイロットなのです。
 なぜそんなことをしているのかというと、この世界のロボットは気に入った美少女が乗らないと動かないという仕様なので、こうして偽装オーディションで女の子を集めることで、ロボが気に入る美少女を探しているのです。

 そんなわけで、はるか遠方の格納庫にいる巨大ロボット「インベル」も、このオーディションの様子をカメラでチェックしています。

第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より
胸チェック! スカートの中チェック! 全身チェック!

 こうして、インベルに気に入られた春香ちゃんに合格通知が届き、彼女はアイドルを目指して上京するのでした。



 ところで、「アイドルマスター」の世界には、インベルを含めて5体のロボットが存在しており、そのすべてが美少女好きロリコン率高し)です。
 劇中では、この5体のロリロボをひっくるめて「iDOL」と呼んでいます。

 さて、そんなiDOLのうちの1体を、上京したばかりの春香ちゃんが偶然目撃します。
 そして、生まれて初めて見るロボットの勇姿に感動して、春香ちゃんが「iDOLって、ちょっとかっこいいね」と言った次の瞬間……。

第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より
格納庫で盗撮中のインベル 春香「iDOLって、かっこいいね」 ドキュゥゥゥゥゥゥン!

 格納庫のインベルが、轟音をあげながら勝手に起動します。

 どうやらインベルの脳内で、
 「春香がiDOLを褒めた」→「iDOLイコール俺」→「春香たんと俺は相思相愛!!
 という思考が展開されたようです。

 興奮したインベルは、パイロットも乗っていないのに隔壁を内側から突き破って移動、唐突に春香ちゃんの目の前に現れます

第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より

 さらに、インベルは重力をコントロールして春香ちゃんの身体を宙に舞い上げると、そのまま自分のコクピットに吸い込みます
 そうして、わけがわからないままコクピットに座らされた春香ちゃんの目の前に、これまで撮影された盗撮映像の数々が映し出されるのでした。

第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より 第1話「上京ペンギン」より

 どうやら、ロボットなので言葉が喋れないかわりに、「ずっと君を見ていたよ」とアピールしているようです。



 こうして、インベルのパイロットになった春香ちゃん。

 彼女にしてみれば、突然現れた巨大ロボットが、なぜか自分の盗撮映像を大量に所持していたわけです。
 そのあまりにも変態的なアプローチに、春香ちゃんも意外と悪い気はせず、少しずつインベルに惹かれていきます

 そうして、「ちょっとくらい冒険しても、いいよね?」と言って、インベルのために勝負パンツをはいたり……。

第6話「高度二万米」より 第6話「高度二万米」より 第6話「高度二万米」より
ロボのことを想いながらパンツを選んで赤面する16歳

 「わたしのことを、もっと知ってほしい」「まだ誰にも見せてないの。だからインベルがはじめてだよ」と言って、インベルに水着姿を見せたり……。

第8話「コンペイトウ夜話」より 第8話「コンペイトウ夜話」より 第8話「コンペイトウ夜話」より
夜の海でデート 春香「じゃじゃーん!」 インベルのモニタに「●REC」

 そして、ある日、インベルの中に「FAVORITE FILE 0518」というファイルを発見した春香ちゃん。「このファイル、何?」とクリックしてみると……。

第15話「格納庫天国」より 第15話「格納庫天国」より 第15話「格納庫天国」より

 当然のように、中身は春香ちゃん盗撮集でした。
 このあまりにも変態的な行動に、さすがの春香ちゃんも思わずほおを染めて、「ありがとう……インベル」と喜びます



 そんなこんなで、人間に萌えるロボットロボットに恋する人間
 狂った者同士だからこそ相性完璧という、バカップルを超えた狂ップルがイチャイチャしているわけですが、そんな2人の恋路を邪魔する敵が登場します。

 それは、インベルの元カノの千早さん
 具体的には、16年前までインベルのパイロットだったという……、えっと(計算中)……、とんでもない年増女です。

 千早さんは積極的にインベルにアプローチしますが、インベルは若い娘に夢中で、まったく振り向いてくれません。
 そのショックで、「どうしてなのインベル。私はすべてをあなたに捧げた。心も、身体も。なのに……」と落ち込む千早さん(48歳)。

 しかし、その後、彼女は幼女拉致作戦を実行。

第18話「夜」より 第18話「夜」より
誘拐された幼女(とかち) 生意気な幼女にアイアンクロー

 この作戦がうまくいって、めでたく千早さんはインベルの強奪に成功します。



 インベルを奪った千早さんは、「やっと戻ってきてくれた、私のインベル……」と、恍惚とした表情でインベルにスリスリ

第21話「最後の・プリン」より 第21話「最後の・プリン」より 第21話「最後の・プリン」より

 そして、自分以外の人間がインベルに触れると、突き飛ばして「汚れるじゃない」と激怒。
 「ほらインベル、いまキレイにしてあげるわね……」と言って、インベルにキスをします。

 なお、この前後、美少女しか乗せないハズのインベルが、千早さん(48歳)の操縦で動いている理由は謎ですが、

 (1)最近春香ちゃんが構ってくれないのでスネてみた
 (2)久しぶりに昔の彼女に会ったら気が狂っていたので、さすがに少し同情した
 (3)たまにはヤンデレもいいかなと思った

 個人的には、(3)に説得力を感じます。

 ともあれ、インベルを操縦しながら、「うふ……熱いわ……インベル……うふふ……とけちゃいそう……」などと千早さんがコクピットで感じていると、そこに我らがヒロイン・春香ちゃんが登場!

第23話「RUN!」より 第23話「RUN!」より
春香「私…」 「私、あなたが…好きです!」

 春香ちゃんは、「私、あなたが…好きです!」とロボットに告白
 次の瞬間、インベルは目を光らせて、千早さんが乗っているコクピットを射出します。

第23話「RUN!」より 第23話「RUN!」より 第23話「RUN!」より

 ……哀れ、ポイ捨てされて空を飛んでいく千早さん(48歳)

第23話「RUN!」より 第23話「RUN!」より 第23話「RUN!」より
春香「ずっと…」 「…好きだったの」 その頃の千早さん

 こうして、正式に彼氏彼女になったインベル&春香ちゃんと、もともと病んでいた精神をさらに病んだ千早さんでした。



 さて、インベルに捨てられた千早さんは、「満たされていくの、白く……うふふ……うふふふふ……」「クリームみたいに……白いの……」などと言い出します。

第24話「復興暦百八年」より
千早「真っ白にトロけて……」

 彼女が言うには、人間の身体を粒子化させてロボに撃ち込むことで、ロボと人間は物理的に融合できるのだそうです。
 「インベルとわたしは、ひとつになるの。真っ白に……トロけるの……とおっても甘くて……気持ちがいいの……ふわふわのマシュマロ……とろとろのミルククリーム……

 そして、怪しげな装置を起動させ、千早さんは自分の身体を粒子化させるのでした。

第24話「復興暦百八年」より 第24話「復興暦百八年」より
怪しげな装置で、千早さんの肉体は消滅



 しかし、インベルとの融合を果たすには、だれかが千早粒子をインベルに撃ち込まなければなりません。
 そこで登場するのが、千早さんの忠実なペットである雪歩です。

第20話「かえりみち」より 第24話「復興暦百八年」より
雪歩「私の飼い主は千早さんです」 雪歩と、生前の千早さん

 「私の飼い主は千早さんです」と言い切る雪歩は、愛する千早さんの願いを叶えるため、ロボに乗って出撃。
 春香ちゃんに向かって、千早さんの素晴らしさを訴えます。

 曰く、「あなたは何も分かっていない。何の努力もせずにインベルのマスターになって、インベルに愛されて。千早さんの……」

第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より
「苦しみも!」 「悲しみも!」 「情熱も!」 「想いも!」 「何も!」

 「……あなたには何もない! なのに、なぜあなたは愛されるの?」と、千早さんの半裸や全裸を回想しながら熱弁する雪歩。
 確かに、若いというだけでインベルに愛されている春香ちゃんには、(年増女の)苦しみも、(年増女の)悲しみも、(年増女の)情熱も分からないでしょう。

 それから、雪歩は見事にインベルを倒して千早さんの粉末を撃ち込むことに成功します。

第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より
雪歩「千早さんとインベルを、ひとつに! 千早さん、これが私の…愛です!」

 ところが、せっかく注入された千早粉を、インベルは体外に噴射

第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より

 ……哀れ、ゴミのように空気中に飛散していく千早さん(48歳)の粒子

 それを見て、涙目になる雪歩。

第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より
雪歩「なんで?」 「なんで…!」

 そこで、春香ちゃんが長々と語り出します。
 曰く、「きっと、インベルは……ううん、iDOLでも人でも、好きな人と一緒になるって、そういうことじゃないよ。好きな人と一緒になるって、その人と同じになるんじゃない。きっと、違うところをお互いに見つけていくことなんだよ。だから、わかんないことも、キライって思うこともいっぱいあるかも知れないけど、でも、きっとそれでいい。それでよかったのに。インベルは千早さんを見てたのに。千早さんは、インベルに見てもらおうとするだけで、インベルを見なかった。それはきっと……愛じゃないもの!

第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より 第25話「春の雪」より
「愛じゃないもの!」 ガガーン! 「ごめんなさい…ありがとう…」

 そう、これまでの半年間の放送はすべて、この巨大ロボと恋愛中の女による、愛についての説教のためにあったのです。
 これには精神を病んでいたレズっ娘も思わずガガーンと心を打たれて泣いて謝ります

 ただ、要するに「千早さんのインベルへの愛はニセモノだけど私の愛はホンモノ」という話なのですが、これまで本編で描写されてきた限りではどっちもどっちの電波女に見えるのが難点です。

 それにインベルにしてみれば、16歳と付き合っているところに大昔に捨てた48歳が言い寄ってきただけの話で、どちらかといえば、さきほどの雪歩の主張「四十過ぎて独身の女の気持ちは小娘には分からぬわ!」(要約)の方が実情に近い気がします。

 そんなこんなで、春香ちゃんの台詞を本編の内容とリンクさせるとしたら、むしろ次のような感じになるかと思います。



 きっと、アイマスは……ううん、アイマスでも何でも、好きな原作がアニメ化されるって、そういうことじゃないよ。
 原作を尊重しつつアニメならではの魅力を出そうとしたら、消化不良になることも、単なるファンアイテムで終わることもいっぱいあるかも知れないけど、でも、きっとそれでいい。それでよかったのに。

 ファンは原作を見てたのに。サンライズは完全新作ロボットアニメを作ろうとするだけで、原作を見なかった

 それはきっと……愛じゃないもの!

おまけ:「アイドルマスター XENOGLOSSIA」と斧女


平成20年3月30日 「巨人の星」の左門の妹は年をとらない

 マガジン先週号の「新約 巨人の星」に、左門が初登場しました。

 そこで、花形・飛雄馬・左門の「新解釈」を比較してみると……。

『巨人の星』 KCスペシャル版 1巻153頁 『週刊少年マガジン』 2006年52号239頁
誰だお前

『巨人の星』 KCスペシャル版 1巻234頁 『週刊少年マガジン』 2007年30号296〜297頁
ほっぺたが「NARUTO」

『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻21頁 『週刊少年マガジン』 2008年16号216頁
1966年 2008年

 ……左門だけはほぼ昭和のまま登場

 そういえば、原作者自身が作ったニセモノである「新 巨人の星」でも、

『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 3巻301頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 3巻301頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 3巻120頁
花形(27歳くらい) 飛雄馬(25歳くらい) 左門(27歳くらい)

 花形と飛雄馬は明らかに別人なのに、左門は据え置きでした。

 やはり左門の時代を超えたイケメンっぷりには、手の施しようがないのでしょう。



 ところで、そんな左門は5人の弟妹を養っています。
 その中でも長女・ちよは比較的しっかり者で、弟たちの世話や家事をしていました。

『巨人の星』 KCスペシャル版 09巻253頁
元祖ちよ(アニメ版の声優はバカボンのママ)

 「新約 巨人の星」では、この設定を踏襲しながら、外見を現代風にアレンジ

『週刊少年マガジン』 2008年16号206頁
新約ちよ

 さらに、「ふえっ」「照れちゃうよぉ…」「エヘヘ」「モゴモゴ」といった言動に、「病気」というオプションも追加され、左門がエロゲーの主人公のようです



 さて、そんな左門ファミリーですが、原作では長女よりも二女・みちの方がミステリーでした。

 というのも、「巨人の星」から「新 巨人の星」にかけて約18年間の彼女の成長の記録を見てみると……。

『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻360頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 11巻199頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 4巻176頁
昭和34年ごろ 昭和44年 昭和52年

 つまり、彼女は中学生くらいになっても幼児語でしゃべり、大学生くらいになっても椅子に座ると足が浮くのです。

 本来なら働いたり嫁いだりする年齢なのに、いつまでたっても兄に扶養されている妹。
 その成長速度は、兄や姉と比較してみても……。

『巨人の星』 KCスペシャル版 2巻360頁、『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 5巻321頁
左門ブラザーズの18年間の成長

 たぶん、彼女はニートをこじらせて成長が止まったと思われるので、左門は早くこの20代の幼女を路上に放り出すべきでしょう。



 とはいえ、「巨人の星」ワールドの時空が歪んでいるのは、左門家だけの現象ではありません。

 たとえば花形の場合、昭和43年にプロ入りした事実から逆算すると、例の車を運転していた昭和33年には小学3年生だったことになります。

『巨人の星』 KCスペシャル版 01巻079頁 『巨人の星』 KCスペシャル版 01巻056頁
例の車 左のガキは「六年生」との言及あり

 しかし、花形はこの時点でテニス歴10年だったり、六年生の頭をナデナデしたり……。
 作者の認識としては「中学生以上」という設定で描いているように見えます。

 また、「巨人の星」の世界では飛雄馬が昭和41年から一年過ごしたら昭和43年になっていたりするため、どう計算しても絶対に矛盾します。
 そこで、どうせ何かは矛盾するのなら、「オッス、オラ梶原一騎。花形は昭和33年の時点で13歳以上だけど、昭和43年に19歳なんだ。文句あっか!」という説を採るのが一般的です。

 同様に考えるなら、左門の妹も「外見が異様に幼い20代」ではなく「実年齢自体が幼女」だということになります。
 つまり、作者の認識としては、犬が一生四本足で歩くような感じで左門は一生妹を扶養し続ける存在なのでしょう。

『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 5巻324頁 『新巨人の星』 講談社漫画文庫版 5巻324頁
※全員20年以上生きています

 ネットアイドルちゆは左門を応援しています。

ふろく:花形が泣いたシーン一覧とか


平成20年4月13日 講談社漫画賞をドラゴンボールが受賞できなかった理由

 講談社漫画賞とは、「漫画界の質的向上」のために、毎年「最も優れた作品を発表した漫画作家」に与えられる賞です。

 ただし、これまでに選ばれた「最も優れた作品」の8割は講談社の漫画になります。

講談社漫画賞の全受賞作に占める、出版社の割合

 また、講談社に次いで「最も優れた作品」を多く輩出しているのは集英社ですが、実は「少年ジャンプ」の漫画は一度も選ばれていません



 たとえば、「ドラゴンボール」は、「候補作」にノミネートされたことが2回あります。
 しかし、厳正な選考の結果、最終的に受賞したのは「鉄拳チンミ」「はじめの一歩」でした。

 どうして「ドラゴンボール」が選ばれなかったのか、選考委員の「選評」によると、

「『ドラゴンボール』は安心感が不満」(阿部進)

「完成度から言えば『ドラゴンボール』だった。が、既に評価が定まっている。それより未完成だが着実に腕を伸ばしている『はじめの一歩』を鼓舞奨励しようという意見が大勢を占めた」(石森章太郎)

「完成度・力量としては『ドラゴンボール』が勝るものの、実直に描き進めている『はじめの一歩』に好感度」(大和和紀)

 ……という感じで、どうやらあえて「最も優れた作品」を選ばなかったようです。



 また、「スラムダンク」が候補作に挙がったことも2回ありますが、その年は結局「シュート!」「風光る」が受賞しました。

 「スラムダンク」を選ばなかった理由は、

「漫画というより『絵』の見せ方そのものに重きが置かれすぎているのではないか? という意見が大勢を占めた」(里中満智子)

「少年漫画部門では『SLAM DUNK』が抜群の人気を示しながら、惜しくも旬をのがした感があり」(大和和紀)

 ちなみに、「スラムダンク」の連載終了後、同じ作者が講談社で「バガボンド」を描き始めたところ、そちらは速攻で受賞

「画力、演出力、構成力で他を圧倒」(永井豪)

「圧倒的なイメージの喚起力に脱帽」(村上知彦)

 ……などと選考委員も大絶賛で、「スラムダンク」で指摘された欠点は「モーニング」で連載することによって克服されたと思われます。



 あと、「ワンピース」がノミネートされた1999年には、恐ろしいことに「カメレオン」が受賞。

 旬まっさかりだった「ワンピース」を押しのけて、連載9年目でマンネリ感あふれる「カメレオン」になぜ今さらという印象でしたが……。

「『ONE PIECE』『勝負師伝説・哲也』等、強力な候補作の揃ったこの部門で、まさに主人公のようにしぶとく、一発逆転で『カメレオン』が受賞しました。十年近くもハイテンションを落とさず描き続けた作者のパワーが評価されました」(小林まこと)

「『ワンピース』のセンスの高さに評価が集まったが、『カメレオン』の、ギャグを長く、又、同じレベルで保っている努力と根気を買った」(大和和紀)

 つまり、ジャンプの漫画は完成度が高くても「既に評価が定まっている」「旬をのがした」でスルーされますが、マガジンの漫画なら、新人の鼓舞奨励やベテランの功労で受賞できるのです。

 たぶん、その辺が「漫画界の質的向上」につながっていくのでしょう。



 とはいえ、「選考委員」の先生たちが、わざと講談社をひいきしているのかはよく分かりません。

 たとえば、石森章太郎先生は80年代以降のジャンプ漫画があまり理解できなかったようです。

 「ドラゴンボール」がノミネートされた年の石森先生の選評は、

「少年部門と少女部門このところ“不作”に過ぎる

 「ジョジョの奇妙な冒険」が候補作になったときは、

「今回もまた少年・少女部門の層の薄さを嘆く事になった」

 「スラムダンク」の年には、

「今回は“惨敗”であった」

 そして、石森先生が褒めたのは「名門!第三野球部」や「岳人列伝」でした。

 ちなみに「岳人列伝」は、一言でいえば山に登って死ぬ話
 危険な天候で下山命令が出ているのに、「おれたちはみんな高山病で冷静な判断ってやつができないのさ!」と登り続けるエピソードでは、結局 雪崩に襲われて、

『岳人列伝 2 ザイル』 182〜183頁
おれたちは ほんのちょいと やりすぎちまっただけさ!!」

 ……と、全員雪崩に飲み込まれて終わりでした。

 この「岳人列伝」が、ラブコメブームの1982年に「タッチ」を押しのけて講談社漫画賞を受賞。
 石森先生の選評は、次のようなものでした。

「優しく小さく弱々しくがナウイといわれる現在、この如何にも“少年”マンガらしい荒々しさは貴重である」

 講談社のラブコメ漫画「胸さわぎの放課後」も候補作だったのに、あえて小学館の登山漫画「岳人列伝」を選ぶのは、それなりにマガジンらしいと言えます。

 そんな感じで、選考委員には講談社で活躍した漫画家が多いため、自然とマガジン的な漫画が選ばれやすくなったということもあるようです。



 ただし、2001年に「テニスの王子様」がノミネートされたのを最後に、「週刊少年ジャンプ」の漫画は最初から「候補作」にすら挙がらないようになりました。

 具体的には、最近6年間の少年部門の候補作は、次のような感じです。

タイトル 掲載誌 タイトル 掲載誌
02年 魁!!クロマティ高校 週刊マガジン 07年 さよなら絶望先生 月刊マガジン
BECK 月刊マガジン DEAR BOYS ACTU 月刊マガジン
RAVE 週刊マガジン 怪物王女 月刊シリウス
I'll〜アイル〜 月刊ジャンプ ゴッドハンド輝 週刊マガジン
ファンタジスタ 週刊サンデー 史上最強の弟子ケンイチ 週刊サンデー
03年 クニミツの政 週刊マガジン 06年 エア・ギア 週刊マガジン
遮那王─義経─ 月刊マガジン Q.E.D.証明終了 マガジンGREAT
仮面ライダーSPIRITS マガジンZ マジカノ マガジンZ
ゴッドハンド輝 週刊マガジン MAR 週刊サンデー
04年 遮那王─義経─ 月刊マガジン 05年 capeta 週刊マガジン
ゴッドハンド輝 週刊マガジン 仮面ライダーSPIRITS マガジンZ
美鳥の日々 週刊サンデー スクールランブル 週刊マガジン
ワイルドライフ 週刊サンデー
※背景の黄色いものが講談社作品

 つまり、最近6年間で集英社からノミネートされたのは、「ハンター」「ナルト」「ヒカ碁」「アイシールド」「デスノート」などを差し置いて月刊ジャンプ連載の「アイル」のみ

 講談社以外の有力な対抗馬がノミネートされることが少なくなり、以前のような選評の不自然さは解消されたと言えます。



 ちなみに、小学館漫画賞のほうでは、「サンデー」や「ジャンプ」の漫画の受賞が多く、「マガジン」の漫画が選ばれたことは過去に一度もありませんでした
 (小学館・集英社・白泉社の系列グループ内だけで十分受賞作が出せるからでしょう)

 ところが、今年、はじめて「マガジン」の漫画が小学館漫画賞を受賞
 すわ何事かと思いましたが、まもなく「マガジン」「サンデー」共同キャンペーンなどが発表されて納得しました

 そんなわけで、今年も5月10日ごろに講談社漫画賞の選考委員会があるハズですが、今回はお返しに「サンデー」から選ばれる可能性が高いと思われます。

 たぶん、いちおうの本命は「ハヤテのごとく!」と「絶対可憐チルドレン」
 ただ、講談社漫画賞だと「ハヤテ」のような絵柄の漫画は不利で、「チルドレン」のセンスの古さ(褒め言葉)に好感度が高いと思われます。

 あとは候補作の挙げられ方しだいですが、「コナン」「クロスゲーム」「メジャー」「あお高」「ケンイチ」あたり。
 さすがに「犬夜叉」「結界師」は無理で、「金剛番長」「月光条例」は連載回数が少なすぎるので対象外。大穴は「ロストブレイン」という感じでしょうか。

 ネットアイドルちゆは「金剛番長」を応援しています。

おまけ:「その他の興味深い選評」「講談社漫画賞の候補作一覧」など



トップページに戻る