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80年代、オカルト雑誌『ムー』の文通相手募集欄を見ると、
「戦士、巫女、天使、妖精、金星人、竜族の民の方、ぜひお手紙ください」
「前生アトランティスの戦士だった方、石の塔の戦いを覚えている方、最終戦士の方、エリア・ジェイ・マイナ・ライジャ・カルラの名を知っている方などと」
といったお手紙がたくさん掲載されていました。
この発生時期について諸説あったので、簡単にまとめてみました。
- 『ムー』創刊。
- 創刊号から「自分が地球以外の宇宙人だと思う人と文通がしたいので~す」という14歳の女の子はいますが、まだ前世少女からの投稿はありません。
- まだ前世少女はいません。
- 「あたし‥‥実は異星人なんだ‥‥」「異星人の仲間どこかにいない‥‥?」(3月号)という15歳の女の子はいますが、本気度は不明。
- まだ前世少女はいません。
- この時期、「超人ロックが好きで、ロックのようなESPERになりたいとがんばっています」(5月号)という14歳の女の子など、エスパー志望者がやや目立ちます。
- まだ前世少女はいません。
- 「転生、超能力、SFに興味がある女子」との文通を希望する18歳(4月号)や、「転生について異常なほど興味があり、明るすぎるほどのぼくにお手紙ください」という16歳(10月号)など、転生に関する投稿は少し増えました。
※前世少女とは関係ないのですが、82年には、「わたしは4年生ですが、ミステリーにきょうみをもちました。おにいちゃんかおねえちゃん、お手紙ください」(11月号)などと、ひらがな交じりに文通相手を募集する女子小学生がいたりして、ちょっと心配になります。
- この頃、「人類救済を目的とするサークル」のメンバー募集(5月号)など、終末を意識した投稿が増加します(たぶん、3月公開の『幻魔大戦』劇場版の影響が大きかったと思われます)。
- 9月号では、「自分が宇宙とかかわる“光の戦士”か“救世主”だと思う方、連絡してください」という中3の女の子が登場。
- 10月号には、「前世の記憶がもどり、超常現象の体験がありま~す」という中3の女の子。
- 11月号では、「自分の前世を知っている方、エスパーの方、超古代に関する夢などをよく見る方、何かの使命を持ち、ひそかに生まれたと思っている方など、お手紙ください」という中3の女の子。
- 「不思議な夢をよく見ます。私には何かの使命があるような…」という高2の少女(3月号)。
- 「この風景に見覚えのある方おまちしてます」と、イラストを投稿する18歳の女の子(7月号)。
- 「古代ギリシアの地中海にいたころの過去世の記憶がある方で、自分の魂、もしくは守護神がギリシア神話に出てくる神々である方と。私の守護神はアポロンですが、同じ系列の仲間を捜しています」という23歳の男性(12月号)。
- 「前世の記憶が“平家一門”だったのではと思われる方…そして“葵”という名の源氏方の若い武将にお心当たりの方」からの連絡を待つ17歳の女性(3月号)。
- 「あたしは幽体離脱、幽体分裂、時間をもどしたり、遅くすすめたり、タイムリープができます。100年に1度の天使のハネを持つ妖霊です」という18歳の女の子が、「マヤ出身の人(白い魂の子)」との文通を希望(3月号)。
※「弥生時代か飛鳥時代に生きた記憶のある方、ご連絡ください」という高校3年生や、「毛利元就の2男・吉川氏の家系の前生をもたれる方、おききしたい事があります」という17歳(5月号)など、この頃までは、前世が異星や異次元なのは少数派でした。
- 6月号で、「私の前世は戦士です(名前はわかりません)」という18歳の女の子が登場。
- 7月号では、「自分がミヤリア一族だと思われる方、または、ソディラ、セカ、スィール、ミヤ、セヤ、ジィン、マラ、リヤ、トルファン、オルキムの名に心あたりがあるか、自分の魂の名がこのいずれかの方」を探す15歳の女の子が登場。これ以降、カッコイイ名前の尋ね人が増えます。
- 9月号では、「自分がライラス、ディア=カルラルという名で、私ラディナルスを知っていると思う方」を探す17歳の女の子。
- 10月号では、「シーガル、またはアルジェリオンの名前の前世を持つ方」を探す20歳の女性。
※前世少女とは関係ないのですが、17歳の女の子が『ムー』の文通コーナーで超能力者の女の子と知り合ったところ、実は相手の正体は超能力少女のフリをした中年男性で、「ボクの家に遊びにきてくださいね。泊まりにきてくださいね」などと言われたそうです(10月号)。
- 「古代大地(ヤマト)一族、またはゼル、セラの名を知っている方、お手紙を」という17歳(1月号)。
- 「“サーシェ”“エスター”の名におぼえのある人」を探す中3女子(2月号)。
- 「自分は前世で西ドイツに生きていたんじゃないかと思っています。ベートーベンにも会ったような気がしますし…。友だちには『光の天使ではないか』といわれます」という中2女子(2月号)。
- 「前世が古代エジプト王の人」を探す高校1年生(4月号)。
- 「前世が宮本武蔵だったと思われる方、お通という女性を知っている方、お手紙ください」という18歳の女の子(4月号)。
- 「前世(前生)でヴィシュヌ神、シバ神、インドラ神、ミカエル大天使、アポロンなどと一緒に行動していたと思われる方」を探す高2男子(4月号)。
- 「私は3歳の時に運命を告げられ着実に超能力を伸ばしてきた戦士の一人です」「同じ戦士の方、かなり強いエスパーの方、一緒に最終戦争に備えませんか?」という18歳の女の子(7月号)。
- 「九燿、霊能者、超能力者、妖姫、闘竜、戦士の過去を持つみなさん! 歌巫女の私に連絡をください」という14歳の女の子(9月号)。
- 「前世が忍者だったと思う方、お手紙ください」という16歳の女の子(9月号)。
- 「山都(やまと)という人を知っている方、天輪王、剣皇子、七大天使に会った方、東京に出てこられる天界人の方、急ぎますので、即、お手紙ください」という16歳の女の子(10月号)。
- 「水の中でも息ができる人、自分の前世は水棲人ではないかと思われる方、おたよりください」という高3の女の子(11月号)。
- 「“零”という男の人を捜しています。私は“咲風”です」という高2の女の子(12月号)。
- 「戦士の方、ESPERの方、『7人の戦士』を知っている方、『クニヤス』『タカシ』という中学3年の大阪の男の子を知っている方など、60円切手同封のお手紙をください。私も“使命がある”といわれています」という中3の女の子(12月号)。
86年末から、『花とゆめ』で『ぼくの地球を守って』という漫画の連載がスタート。
作中で、前世の夢を見た主人公たちが、『ブー』という雑誌に「柊・秋海棠・紫苑・繻子蘭 心あたりあれば連絡下さい。こちら玉蘭・木蓮・槐です」と投稿。
それを見た柊と繻子蘭から連絡があり、無事に前世の仲間と再会を果たす……という場面が、87年10月出版の単行本2巻に収録されました。
- 「人類史はじまって以来の重要な使命をもつ私です」という21歳の主婦(1月号)。
- 「建、一馬、ちゆ、魔魅という名に憶えがある方、または何か知っている方、いましたらご報告下さい」という14歳の女の子(2月号)。
- 「覚醒した龍族の民を探しております(かくいう私も一応ナーガです)」という17歳の女子高生(2月号)。
- 「自分は超古代人類の生まれ変わりではないかと信じている方。それと“アナ”“アナク”“アクナ”(3つの名前は同一人物です)と言う名前に聞き覚えのある方! どうかお手紙ください」という高3の女の子(4月号)。
- 「霧風、涼風、時風、白羽の名におぼえのある方か、私を仲間と感じる方、助けてください! 私はひとりぼっちです」という中3の女の子(6月号)。
- 「ラリファー、レファーナ、ファーリィ、エルナード、マリー=ベット、アースリーナ、翔(金髪でBlue eyeです)、セドリック、高見幸一という名前に何かを感じる方、戦士の方、宇宙人の方、異次元の方、お手紙ください」という人(7月号)。
- 「前世名が神夢、在月、星音という3人の男性を捜しています。早く目覚めて連絡を!!」という高3の女の子(7月号)。
- 85年7月号でミヤリア一族を探していた15歳の女の子が、17歳になって再登場。2年前と同じ仲間を探し続けている様子でした(「ミヤリア・一族」と「ミヤリアー・族」のどちらが正しいのかは不明)。
85年7月号
87年7月号
- 「戦士、巫女、天使、妖精、金星人、竜族の民の方、ぜひお手紙ください。戦士でありながら巫女でもある私です」という23歳の女性(9月号)。
- 「“結城”という名の永遠なるパートナーを捜しております。私の名は“倭(やまと)”で、北の血を引くものです」という19歳の女性(9月号)。
- 「さがしています!! “文殊”の穴に入った3月生まれの男性!」「私は“普賢”の穴に入った4月30日生まれの者です。手によく金粉が出ます」という17歳の女の子(11月号)。
※この頃、前世少女以外にも「戦士」に関する投稿は多く、「私は5歳のとき、神から戦士として生きることを命ぜられ、力を与えられました。私の叫びが聞こえた方、お手紙を」という高3の女の子(4月号)や、「戦士」に超能力の出し方を質問する女性もいました(10月号)。
12月号の投稿欄には、「戦士といっている方へ一言。本当に戦士ですか?」「私はちがうと思います」という、14歳のツッコミが掲載されました。
ただし、そう考える理由は、「真の戦士ならばこんなところに名乗りでないと思うからです。戦士は“時(真の戦い)”がくれば、集結するのです」とのことでした。
- 「『青竜』『アル・タイス』に聞き覚えのある方!! 竜族の民も!!」という専門学校生の女の子(1月号)。
- 「戦士の方で、姫に心当たりのある方と。私は龍神さまと自然をこよなく愛する魚座で金星の陽の者です」という高3の女の子(2月号)。
- 「“時”についての啓示あり。ESP戦士の方々は連絡を。戦士としての名前と生年月日を書いてください。60円切手同封だと助かる」という人(2月号)。
- 「エーデル星で選ばれた聖なる月、星、緑、影の戦士の方、お手紙を」という13歳の女の子(2月号)。
- 「太陽を神とあがめる戦士か巫女の方、ロミーという名を知っている方、お手紙を!」という高1の女の子(4月号)。
- 「前生アトランティスの戦士だった方、石の塔の戦いを覚えている方、最終戦士の方、エリア・ジェイ・マイナ・ライジャ・カルラの名を知っている方」を捜す高2の色魔さん(4月号)。
- 「私はエルミオンという青年(少年)を捜しています。前世で私と関係のあった方、ロザリオを知っている方、お手紙ください」という15歳(5月号)。
- 5月号の投稿欄では、自分が戦士だという人は「戦士症候群」に陥っているのだと批判する17歳の意見が載りました。
※これに対して、「緑の地球を守り、人類の永続的な平和と栄光を胸に秘めている存在──それが『戦士』なのです」(7月号)、「そういう気持ちは、人間としてだれもが持つべき心であり “戦士”と称する人たちだけのものではありません」(11月号)といった意見も掲載されました。
- 6月号から、『ムー』は前世の仲間探しを載せない方針になりました。
※「前世が吟遊詩人だったぼくにお手紙ください。(ごめんなさい、ウソです。ただ寂しかったから、つい……)」はOKでしたが、「○○の名に心当たりのある方、私は××です」はNG。
- その後も、『TZ』(89年休刊)や『マヤ』(92年休刊)など、ほかのオカルト雑誌には前世少女の求人が載り続けました(詳細は『TZ』の前世少女年表参照)
例:「雅風、白里、夜司、千路、亜蘭、涼河、潤緒、龍華、美月、彩緑、鳳火等に心当たりのある方。またはアーク・セリア帝国反乱軍の同志、ジェスターの方々ご連絡ください。こちら茗梨、星音、千紫亜、馨麗、水矢等です」(『TZ』89年3月号)
例:「プレアミスという言葉に何かを感じた方、剣の所持者の方ご連絡ください。私は光の剣の所持者で前生名をライオスといいます。私の友人たちも剣の所持者で炎の剣と天の剣を取り戻してます」(『TZ』89年10月号)
1989年の夏休み、「エリナ」や「ミルシャー」の生まれ変わりだという女の子たちが、前世を見るために自殺騒動を起こしました。
なんでも、「みんな、前世は美しいお姫様だった。楽しそうな前世をのぞくには、一度死んでみればいい」と考えたそうで、3人の女の子たちは映画館で『魔女の宅急便』を見てから海岸に行き、1人がバファリンを8錠、もう1人がバファリンを1錠飲み、最後の1人は何も飲まずに「女の子が倒れている」と119番。救急隊員が駆けつけたときには3人とも倒れており、現場には『シークエンス』の単行本があったそうです。
警察署の係官は、「本気で死ぬ気だったようです。でも、我々が考えているような死ではなく、死んでも、また今の世の中に戻ってこれると信じていた」と述べました(『週刊新潮』89年8月31日号25頁)
※この事件の影響か、89年12月出版の『ぼくの地球を守って』の第8巻では、作者の日渡先生が、フィクションと現実の区別を付けるようにと注意を促しました。
※前世少女の投稿の元祖は、『ぼくの地球を守って』の「柊・秋海棠・紫苑・繻子蘭 心あたりあれば連絡下さい」だと言われることがあります(2ちゃんねる少女漫画用語辞典など)。しかし、『ムー』の投稿欄では、1982年ごろから「転生」に関する投稿が出てきて、83年には「前世の記憶がもどった」という女の子が出現。『ぼく地球』の連載が始まる1年以上前には「ソディラ、セカ、スィール、ミヤ、セヤ、ジィン、マラ、リヤ、トルファン、オルキムの名に心あたりがある方」を探す投稿が載っていたわけで、“オカルト雑誌でカッコイイ名前の前世の仲間を探す行為”そのものの起源が『ぼく地球』だというわけではありません。
※1990年出版の『いまどきの神サマ』という本では、ライターの新山哲さんが、「文通欄の住所に片っ端から手紙を出してみた。何十通も送ったにもかかわらず、返事はゼロ」「文通欄の住所から電話番号を調べ、ほとんど発作的に電話をかけてみた」という取材を実行。戦士のサディアさんに実際に会うなど、貴重なレポートになっています。そして、気になる文通欄で募集したら仲間を見つけられるのか問題についても、体験談を聞き出していました。オカルト雑誌に「戦士、巫女、天使、竜族、妖精、金星人とのコンタクトを求む」と投書していた女性が語ったところによると……。「あの投書を見て連絡してきた人は、ほとんど違いました」「なにしろ、自分のことを“天使次長のガブリエルであり、魔王だ”とか“人外(人狼の亜種だそうだ)の者だ”とか言うんですよ!」「最後まで自分の前世のほうが正しいと言い張る人もいます。そういうのを“なりたガール”というんですけど、よっぽど自分以外の存在になりたいんでしょうね」