昔のちゆニュース
母ちゃん、そのプロレス技 | ||||||||||||||||
「かじめ焼き」(正式名称「男たちの好日」)は、城山三郎先生の小説を下敷きにして、ながいのりあき先生が漫画として完成させた作品です。 ながい先生は、「がんばれ!キッカーズ」で有名な漫画家。連載中に結石で倒れても原稿を落とさなかったという伝説を持っています。 元ジャンプ組が多い「バンチ」では珍しい「コロコロ」出身者ですが、作風が古くてダサいせいか、あまり違和感はありません。
それでは、ストーリーの流れを追っていきましょう。主人公は、小さな漁村をしきる網元の息子・牧 玲睦(まき れいぼく)。物語は、彼の幼い頃から始まります。 玲睦の村では、かじめという海藻を焼いて、薬のヨードの原料を作る仕事をしています。玲睦は、そのチマチマした仕事が嫌いです。 そんな彼に、母ちゃんがお説教。彼女はなぜかプロレス技の名手で、意味もなく戦慄のコンボを披露してくれます。
そんなアルゼンチンバックブリーカーを決めながら「国を支える柱になれ!」とか言われても…。とにかく、「かじめ焼き」の大切さを、言葉ではなく技の凄まじさによって玲睦と読者に思い知らせます。 なお、21世紀の漫画にしては技が80年代的で古くさく感じられるかも知れませんが、この物語の時代設定は約100年前なので、むしろハイカラ過ぎるくらいです。 そうして、よその村の者に「かじめ臭いババア」と言われてケンカになると、母ちゃんはラリアットで応戦。圧倒的な戦闘能力を見せつけます。 ところが、そのケンカの最中。驚異の怪力でボディリフトを見せた次の瞬間に、思わぬ悲劇が…。
なんと、上のコマの直後に「うっ」と言って倒れたかと思うと、いきなり脳溢血で死んでしまいました。 死に際には、玲睦に村の未来とかじめ焼きを託して逝くのですが、唐突すぎて感動すればいいのか笑う場面なのかよく分かりません。 …ちなみに、城山三郎先生の原作小説では、母ちゃんの死因は単なる肺炎。もちろんプロレス技なんて使いません。 |
西洋スーツ、襲来 | ||||
母ちゃんの死後も「かじめ焼き」を続ける玲睦の村ですが、薬のヨードを独占しようと企むイギリス商会は、それを快く思っていませんでした。 そこで、西洋スーツの男が派遣されてきます。村の家を一軒ずつ回り、札束入りのカバンをチラつかせて「かじめ焼き」をやめることを迫るのです。
貧しい村人は次々と買収されていき、「かじめ焼き」に参加する者は減って行きます。 必死で止めようとする玲睦ですが、「網元のあんたにはわかるまい」「かじめ焼くより、食う事の方が先決じゃ」と言われて、返す言葉がありません。 そこに、我らが西洋スーツが登場します。 西洋スーツ「まさしくその通り! 今あなたたちに必要なのはお金だ。食うや食わずのこの貧しい浜の人達を救うのはお金しかない!」 玲睦 「こ…こいつ! ぺてん師のくせして、いけしゃあしゃあと」 西洋スーツ「なめるな小僧。ぺてん師かどうか、じっくり見るがいい」 そう言い放つと、おもむろにカバンを開いて札束を取り出す西洋スーツ。そして、ありったけの金をバラ撒きます。
「迷うことはない、拾いなさい! かじめ焼きさえやめれば、あなたたちのものだ!」。 半狂乱になって、札ビラの奪い合いを始める村人たち。もはや彼らに、玲睦の声など聞こえません。 その様子を見て、満足げに勝ち誇る西洋スーツ。「わかったか小僧。ペテン師は口で勝負するもの。資本家というのは金で勝負するものだ」。 …ちなみに、城山三郎先生の原作小説には西洋スーツなんて登場しません。ながい先生の漫画版オリジナルキャラクターです。 |
心の友、岩源 | ||||
「かじめ焼き」を守るため、玲睦は考えました。かじめを焼いた原料から薬を作る工場を自分たちで経営するのです。 そうすれば西洋スーツに金をもらうより儲かりますし、村人も喜んで参加してくれるでしょう。 しかし、それには玲睦の小さな村だけではなく、多くの村々が協力しなければなりません。そこで、周囲の漁村を仕切る総元締め・岩源に協力を仰ぎますが…。
岩源のところにはすでに西洋スーツが来ており、金の交渉を始めていました。漁師の岩源には、未来の工場よりも目の前の札ビラが魅力的に見えます。 絶望する玲睦ですが、その胸に母ちゃんの言葉が蘇ります。“心でぶつかれ! ありのままぶつけるんじゃ!” そこで玲睦は、海の中で「かじめ」が札ビラに見えた体験を話します。
この話に、岩源はうなります。彼もまた、同じ体験をしたことがあったからです。 「漁師ってのはな…。時々魚が札ビラに見えることがあるんだ。その幻を追って、おれたちも漁をしているんだ」。 男たちは分かり合ったのです。 岩源は、工場への全面的な協力を約束。「かじめ焼き」を続けられることになり、西洋スーツはスゴスゴと退散するのでした。 …ちなみに、城山三郎先生の原作小説には岩源も登場しません。 |
新展開 | |||
あれから10年。青年になった玲睦は、色々あって山奥のダム建設工事の所長を任されていました。 この「ダム工事編」でも、普通に歩けばいいのに無意味に枝から枝へ飛び移って移動するムササビ男、200キロの大熊を素手で殴り殺した巨漢など、漫画版オリジナルの変態的な登場人物が多数現われます。 玲睦は、熊殺しの巨漢と殴り合ったりダイナマイトで脅されたりして、友情を育むことに成功。彼の人外のパワーで、一気に工事は進みます。 ところが、ダム周辺の村は、土地がやせて作物もとれず、貧困で苦しんでいました。ダムが完成しても、この村にメリットはありません。 そこで玲睦は地元の漁村に連絡して、あるものを送ってもらいます。
それは、貨物列車いっぱいに積み込まれたとてつもなく大量の「かじめ」でした。 かじめは薬の原料になる以外に、肥料にもなるのです。このかじめパワーで、村は救われます! 困ったことはかじめで解決。まさにかじめ漫画の本領発揮です。 …もちろん、城山三郎先生の原作小説にかじめトレインは登場しません。 |
男、杉井市兵衛 | ||||
ところで、玲睦が雇われている会社のトップは杉井社長。24時間寝ないで働き続けているという豪傑です。 玲睦が山でダムを建設している頃、その工事に帝都電力という大企業が横槍を入れてきました。そこで杉井社長は、帝都電力の社長とトップ会談を行ない、彼に手を引かせようとします。 会談を見守る新聞記者たちの間にも、緊張が走ります。「腹に一物持つ者同士。まさに狸と狐のばかしあいになるぞ…」。 ところが、その会談の席で、いきなりバカでかいアイスクリームを注文する杉井社長。
杉井「この山盛りのアイスクリームは、私が注文した。注文した以上、私が責任を持って食べ切る。横から手は出さんでくださいよ」 帝都「!!」 杉井「たとえ胃がこわれようと、体が凍えようと…。命をかけて食べ切る」 帝都「杉井さん、よさんか。身体が震え上がっとるぞ」 杉井「厳冬の山の中に比べりゃ… こんなもの」 記者「あのアイスクリームの山はダムの山だ。杉井さんは意地でも引かん覚悟だ」
ブルブル震えながら、必死でアイスクリームを食べる杉井社長。「狸と狐のばかしあい」どころか魂の説得です。 結局、杉井社長は特盛アイスを完食して病院にかつぎこまれ、その男っぷりに圧倒された帝都電力は身を引いたのでした。 …当然、城山三郎先生の原作小説ではアイスクリームなんか食べたりしません。 |
帰ってきたアイツ | |||||||
話は山奥に戻ります。 かじめトレインのおかげで、順調に工事を進める玲睦。しかし、彼の知らないところで、周辺の土地を買い取ってダムを乗っ取ろうとする者が動いていました。 金に物を言わせて地主の村長から土地を買い取る、その男は…。
なんと、あの西洋スーツでした。彼に大金をもらいすぎて、村長は気が狂ってしまいます。 10年の時を経て、大幅なパワーアップを遂げて帰ってきた西洋スーツ。10年もの間、いったい彼はどうしていたのか、本人の回想によると…。
そして、西洋スーツは自ら興した会社の社長に。わずか10年で、うなる程の金と何百人もの配下を動かす力を手に入れたのです。 そんな彼の趣味は、1日に1度、お金を金蔵に投げ入れてその音を聞くこと。
そんな彼と玲睦が、ついに再会。玲睦の右手には、しっかりとかじめが握られています。
西洋スーツ「もしや、外房の小僧、沖津の牧玲睦か!?」 玲睦 「あれから10年……。再びこの山奥で出会うとはな」 西洋スーツ「ヨードの恨み…忘れはせんぞ小僧」 80年代ジャンプ臭ただよう、ライバル同士の熱い再会シーンです。 「積年の恨みを晴らすチャンスだ! ヨードの敵はダムで討ってやる!」。復讐心を燃やす西洋スーツに、玲睦はどう対抗するのでしょうか…。 この決着はバンチ最新号でもまだ着いておらず、ちゆも今後の展開を楽しみにしています。 続きを知りたい方は、ぜひ「コミックバンチ」か単行本でチェックしましょう。そして、どうか中途半端に打ち切られないようにアンケートハガキを出してください。 …ちなみに、くどいようですが城山三郎先生の原作小説には西洋スーツなんて登場しません。 |